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《私の黒猫様》Ep.02

飼い猫×飼い主
(リヴァイが猫)





耳がパタパタと忙しなく動いた。
廊下を踏む靴の音が待ち望んだ人物の物だったから。
ベッドから飛び起きる。寒さだけでなくどこか寂しさを紛らわせるために潜り込んでいたのは、ご主人のベッド。だが、たった今どうでもよくなった。
玄関まで辿り着いたと同時、解錠されたのをこの瞳で確認する。


「おせぇ」

「ただいま。いい子にしてた?」


朝方ぶりのご主人だ。
声を聞けた。
顔が見れて嬉しい。
寝るまでの時間は俺のもの。

これからの時間を想像して嬉しくて尻尾が勝手に上がっていく。ゆらゆら揺れて感情がだだ漏れになっていても止められない。


「俺はいつだっていい子だ」

「そうだねー。よしよし」


頭を撫でられて今度は喉が鳴った。
優しいこの手が大好きで、もっと触って欲しいから甘えてやってもいいぞ。
手に擦り寄って、ひとしきり撫でてもらった後、ご主人を包み込むように抱きしめた。


「ご主人も頑張ったんだろ、よしよし」


首筋に鼻を埋め、くんくんと匂いを嗅ぐ。
ご主人の匂いも好きだ、安心する。
離れていた分、くっついていたい。
お返しに俺もご主人の頭を撫でてやったら気持ちよさそうに微笑んだ。
俺と同じで、気持ちいいとわかりやすい。

一緒にご飯を食べてまったりとした時間がやってきた。
一日の内で一番大好きな時間だ。もちろん、ご主人が休みの日が何よりだが。美味しいものを食べさせてもらっている以上文句は言えない。人間って大変だな。
強いて言うなら、もっともっともっと早く帰ってきてほしいってことくらいか。


「……今日はやけにぴったりひっついてくるねぇ」

「いつもこんなんだろうが」


寝てしまったらすぐに朝が来てしまうから。朝が来たら俺を放って慌ただしく出て行ってしまうくせに。
暗くなってようやく帰ってくるご主人を独り占め出来るのは限られた時間だけ。
そりゃあ、ぴったりひっついて、どこにだってついていく。


「お風呂だから、待っててね」


どこにだってついていく。


「待っててってば、ばかっ」


バカと言われようがどこにだってついていく。


「もうっ、すぐ出てくるから」

「ここで待ってる」


すりガラスの前で待っていようとしたら流石に追い出されてしまった。お風呂に入る前なのに、顔が真っ赤になってやがった。
怒らせちまったのかもしれない。
仕方がないので、脱衣所の前で待機することにする。

すぐってどれくらいだ?
もうすぐか。
今か……。
まだか、もうそろそろ……。
まだだった、ああ、遅えなぁ。
せっかく同じ屋根の下だってのに。
なんで放置されなきゃならねぇんだ。


「みゃぁー」


はやく出てきてくれよ。
一緒にいてくれよ。
一人にするなよ。

背後が慌ただしくなったかと思うと、背中を預けていた扉がほんの少し引かれて、その分ころんと転がりそうになった。転がりそうになった分見上げる。


「やっと出てきやがった」

「そりゃぁ……可愛い声で呼ばれたら出てきちゃうでしょ」


ご主人は浴室から出てきたまま、体にバスタオルを巻いただけの格好のようだった。顔を扉から覗かせている肩が湯気をあげ素肌が濡れている。髪から雫は落ちているし、慌てて出てきたことが伺えた。

俺が猫だからって無防備すぎやしないか。


「中に入ってもいいか?」

「え!? 何言ってんの? 駄目に決まってるでしょ! もうちょっと待ってて」


少しだけ開いていた扉が勢いよく閉められた。耳に届いたのが爆音で思わずビクッと体が跳ねてしまった。


「早くしろ、待ってやったんだ」


扉を開けようとドアノブを回してみる。すると、ご主人側からの抵抗を感じて、素直に諦めた。押し問答を続けていたら、一向に脱衣所から出てきてくれないことを学習したからである。
いい子にしていれば、その分早く出てきてくれる。ばたばたと扉の向こうで急ぐ音が聞こえてきた。


「……みゃぁ」


追い討ちをかけてから待つ。


「もうすぐだからっ、ちょ、ちょっと待って」


俺は今、物凄く楽しいぞ。
俺のために動いているご主人を思うとソワソワする。
俺のことが大好きなご主人のために、このあとはたっぷりと可愛がらせてやってもいい。

お待たせ、とほんのり頬を膨らませつつ出てきたご主人に、俺はやっとの思いで抱きついた。





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