即興小説お題「ゆるふわ愛され犯人」
傾向(NL)


 軽やかな足取りはまるで小鳥のようで、歩くたびにひらひらと揺れるスカートは毛並みの良い犬のようで、振り子のように動く両手は兎の垂れた耳のよう。……これは少し表現が可笑しいかもしれない。
「まーいくんっ、一緒に帰りましょ」
「はーあーいっ」
 きちんと自分の目の前で立ち止まり、首の据わらない人形のように小首を傾げて彼女は笑った。……これも可笑しいだろうか。

 僕の彼女は控えめに言ってもかわいい。どこまで控えても大天使のようにかわいさは消えない。消えるわけがない。むしろ僕が消させない。だって僕の彼女だもの。
 巷でよく言うゆるふわ系、というものに彼女は当てはまるのだろう。僕を見つけるたびに嬉しそうに駆け寄ってきたり、奇抜な服装は好まずふわふわと気持ちよさそうな生地で作られた緩い服を好んで着たり、おしゃべりが少し人よりもゆっくりで早口言葉は苦手なところも加点ポイントだろうか。
「まいくん、そろそろお誕生日だねえ」
「そうだっけ?」
「そうだよ! だからね、私はとっておきのプレゼントをするからねえ、期待しててね!」
 身振り手振りで必死に言葉を伝えてくる彼女を見ながら口元がにやけそうになるのを必死にこらえる。彼女の前では僕は紳士的な彼氏でいなくてはならない。萌えを発動してちよちゃんマジ大天使とか言ってベッドの上で悶え、彼女を題材に同人活動に耽る自分の姿の片鱗だけでも見せようものなら、一瞬で失望されるに決まっている。そんなことは断じてあってはならない。
「そっか。楽しみにしてるね」
「えへへ、楽しみだなあ」
 にこにこと笑顔の大安売りをして彼女は帰り道を軽やかな足取りで進む。歩くたびに揺れるスカートが、手に提げられた鞄の端に付けられているゆるキャラのストラップが、すべて僕の萌えを刺激してくる。今日も妄想がはかどりそうだ。


「……ふふ、今日も更新されてる」
 いつもと違う笑みで、怪しげに足を組んで、彼女が僕の同人活動を監視しているなどということは露ほども知らずに。