不可能の可能性


私の名はミュウツー。
最強のポケモン。

そんな風に呼ばれる。

しかし今この状況を持ってして、果たして誰が私を最強などと思うだろうか。

私は私である限り、何者にも負けないという。
しかし、負けないということの定義、勝つということの意味は何だ?

目の前の物体に目を下ろす。
数刻前まで命ある存在だったそれは、既に只の肉片と化していた。

「おっ、俺たちは悪くないんだ!」

黒服の男が慌てたように叫んで踵を返した。
もはや私には、追い掛けるだけの気力も残っていない。

死んだ。
私のトレーナーが。

ああそうだ、私は勝った。
かすり傷ひとつ負わずにロケット団を蹴散らし、
相手のポケモンを全て戦闘不能にした。
動くもの全てに、容赦はしなかった。
自分の、主人にさえも。


破壊の遺伝子――

私の正気を失わせたものに責任を押しつけるのは簡単だ。
しかし、それはあくまでも要因。結果を引き起こしたのは私自身だ。

動かぬ事実。

冷たい何かが、私の背中をはい上がって頭の頂点を貫いた。

自己再生。

立ち上がって瞳を閉じる。
私自身の細胞が、私の呼び掛けに呼応して起き上がる。

一般に、ポケモンが行う自己能力の変化技を人間に適応させるのは不可能なことだと言われている。
しかし、可能である可能性が否定されるなら、不可能である可能性もまた、否定されうるのではないか。

主人は、私をよく
「奇跡の子」と呼んでいた。
奇跡の子が奇跡を起こせぬものか。


それは再生というよりもいわば、移植手術の様相を呈した。
私の全ては、主人のためにあるのだ。
否、それには語弊があるか。
私の全ては、主人でもトレーナーでもない、
*、お前のためにある。

私の体から這い出たエネルギーは行き場を無くして*の体へ、そしてぼんやりとした光となり、床に転がる破壊の遺伝子をかち割った。

それがまるで命の鼓動を垣間見たようで、胎児の形をした細胞が生命の機能を始めるのを見たようで、私の胸は締め付けられた。

あと少し。
あと少しで、文字通り私は*の一部となる。

ぴくりと動いた彼女の左腕に胸が高鳴ったのは、純粋に彼女が生命活動を再開した嬉しさなのか、それとも私と*がいよいよ切り離せない何かになることへの喜びなのか、私に窺い知ることは出来なかった。

私の名はミュウツー。
最強のポケモン。





2009/11/15





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