小説 | ナノ
雨がやんで屋根から落ちる水滴の音が聞こえてくる。
部屋から聞こえるその音は妙に心を落ち着かせた。
そんな音を聞いていると机の方から水滴の音とは全く違った音が聞こえた。
私は急いで音を鳴らした正体である携帯をつかみ、
今届いたばかりのメールを確認した。
黒と白
Please believe me.
時計は7:30を指していた。
季節はつゆで、昼に降った雨で空気がジメジメしている。
外は時間のわりに明るく、まだ人が数人歩いていた。
そんな中、少し急ぎ足で私は歩いていた。
靴には泥がたくさんついていたが気にしないで歩く。
「先輩?」
後ろから不意に声が聞こえた。
私は一瞬びくっとして後ろを向いた。
後ろには後輩である財前光が立っていた。
財前と私は所謂幼馴染と呼ばれるものである。
今は特別仲がいいわけではないが、昔は今から想像できないぐらい仲が良かった。
「あ、財前君。久しぶりだね。」
私は立ち止り、財前に軽く挨拶をする。
「今から用事っスか?」
「うん、友達に相談したいことがあるからって呼び出されたの。」
財前は私の言葉に曖昧に返事をかえした。
ただ知っている人だから声をかけたぐらいであまり興味はなさそうだった。
「それじゃ、私急いでるから。」
「あ、はい。また…」
財前は肩にかけたテニスバックを軽くかけなおすとポケットに手を入れて歩き始めた。
私は財前と別れるとまた先ほどのように急ぎだす。
メールには「相談」と書いてあったわけではない。
メールの内容を正確に言うと『今から教室に来て。ごめんね。』とあったのだ。
私はその内容を見てとても不安になった。
相手が相手だからだ。
メールの相手は、テニス部マネージャーで噂によると白石君の彼女。
そして私のクラスのいじめの対象だった。
理由は簡単、テニス部と仲がいいから。
各クラスに1グループずつくらい派手な女子が集まるグループがある。
そこから目をつけられた彼女は、一気にクラスのほぼ全員からいじめの対象にされたのだ。
私は、いじめなんて馬鹿らしいと思うのでしていない。
だからこうやって彼女とも普通に連絡が取れるのだ。
私は靴を下駄箱に入れず、急いで教室に向かった。
廊下を歩く音が響いて緊張感が生まれた。
「佐々木さん?」
教室の前で彼女の名前を呼ぶと「あ、名前ちゃん。」と声がした。
一瞬、声がどこからしたのかわからず見渡してみるとベランダに佐々木さんが立っていた。
彼女はベランダの柵にもたれかかり、笑っている。
「危ないよ。教室に入ったら?」
私がそう言うと佐々木さんは小さく笑った。
私は、少しその笑みが怖く感じた。
「名前ちゃんは優しい。」
「え?」
嫌な予感がした。
「ありがとう。」
佐々木さんがそういった瞬間、私は急いでベランダに出た。
そして、彼女の手をつかんだ。
「変なことしないでよ!!駄目だよ!!絶対!」
私は必死に彼女に向かって言う。
でも佐々木さんはさっきと同じように少し笑っていた。
「もう無理なんだ。名前ちゃんのことは大好きだったよ。」
「え、」
一瞬だった。
強い力で握っていた手が振り払われ、彼女は柵にもたれかかるようにベランダから下に落ちて行った。
運動場で部活動の片づけをしていた生徒たちが目撃したらしく叫び声が聞こえてくる。
下から鈍い音が聞こえ、彼女が完全に落ちたことがわかった。
私は、恐怖で下が覗けれず、怖くてその場にしゃがみこんだ。
そして彼女が落ちていくときにかすかに聞えた「ありがとう」を頭の中でリフレインさせた。