20110106 | ナノ


もう春がやってくる。そのことが嬉しくてつい、ライモンの観覧車の前に来てしまった。何度も乗ったことがあるとは言え、久しく目にする観覧車は少し懐かしい。
果たして今春も彼女と乗れるだろうか、とか、もしかして彼女がいたりしないだろうか、なんてことも考えなかったわけではない。けれどどちらかと言えばこれは、気持ちが先走った結果だった。

だから、まさか本当にトウコがいるとは思っていなかった。
人の近付く気配に気付いてか、高く結われたポニーテールが大きく揺れてこちらに振り返る。

「ハルオ?」
「よっ」
「久しぶりだね」
「あ、ああ、そうだな!それよりトウコ、どうしてここに?」
「観覧車に乗りに来た以外ないでしょ、ハルオこそなんで?」
「や、なんとなく……」
「ふーん。まぁいいわ、ここで話しててもあれだし、せっかくだから乗らない?」

話の流れについていきつつ提案されたのは、観覧車の同乗だった。断る理由はない。それどころか、素直に嬉しい。



「私、チャンピオンになれたよ」
「えっ?マジかよ、すげーじゃん!やっぱトウコならいけると思ってたんだよなー。おめでと」
「ありがとう。……まぁ、もうすぐ降りるけどね」
「えっ!?」

驚いた。同じような台詞が続いてしまったが、意味は全く違う。
トウコがチャンピオンになることへ憧れを抱いていたのはよく知っている。それなのに、降りる。
意味がわからなかった。

「な、なんでだよ?」
「……ずっと考えてた。私がチャンピオンになれたのも、ハルオとか、友達のおかげだって」
「いやいや、トウコの実力だって!俺、なんもしてないし」
「ううん……でも、聞いて」
「……」


「気付いたの。本当は、ハルオのためにずっと頑張ってたんだって。でもこのまま続けてたら、一緒に観覧車に乗れなくなっちゃうでしょ?」

震えた声が響いて、耳に残る。
元々美しいトウコが、さらに煌めいて見えた。

「……それで、いいのかよ」
「私が決めたことだから」
「……そう、だよな」

複雑だ。トウコの言っていることが本当なら、彼女は俺のために努力して、俺のためにチャンピオンの座を捨てるつもりなのだ。 そうする理由自体はとても嬉しいけれど、トウコの前で喜んでいいのかわからない。 ありがとうとでも言えばきっとトウコは頷いてくれるだろう。でも、自分の心情を思うと、少なくとも今はできない。罪悪感、というのだろうか。

「怒ってる?」
「全然」
「……ハルオは、私のこと好きじゃない?」
「そんなわけ……」
「言ってほしいな」
「……す、好き、だ」

「私も」

トウコが自分で選んだこととは言え、俺にとっては簡単に納得できない問題だ。
でも、きっとこれからもっと沢山彼女の大胆な行動を知ることになるんだろう。
弱々しく笑うと、なにかの美術品みたいな顔がすぐ傍まで近付いてきていた。


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