20101201 | ナノ

※変な長さのクリスマス話。



約束の時間に五十分も遅刻して、小さめの紙袋とケーキを持ったトウヤが私の家に訪ねてきた。まるで慌てんぼうのサンタクロースだ。のうのうとしてるけど。
問い詰める前に満面の笑みで「トウコが好きそうな奴買ってきた」なんて報告されたら、言おうとしていたことも口にできなくなってしまう。
それより、ドアの隙間から忍び込む風が予想以上に冷たかったので、試しに彼の手に触れてみた。
ああダメだ、なんでこんな寒い日に手袋をしないのかな。少し彼に呆れながらも、とにかく暖をとらせなくてはと急いで自室に連れ込んだ。

「あのさ、トウヤ」
「ん?ケーキ?まぁ待て。これ開けて」

色々とつっこみたいところはある、けど。
先導を取られると従わざるを得ない気がしてきて、そのままトウヤの言葉を待つことにする。
胸にずっと抱えていたままだった紙袋を彼が差し出してきたので、言われた通りシールを剥がし包みを開封した。

「……あ」

チェックの包装紙の中で眠っていたのは、白いマフラーだった。なんの素材かわからないけど、ふわふわと柔らかで、見るからに高そうだ。
決していらないわけじゃない。が、素直に喜べない自分がいるのも事実だった。

「ありがと。私のは後で渡すから」
「ん。じゃあこれ食おうぜ」
「う、ん」

トウヤの手に誘導されて、手提げの付いた箱から赤く艶めくケーキが姿を見せた。芸術品のように輝いていて、一瞬目が眩む。

「トウコ、前ラズベリー好きって言ってただろ?選ぶのに結構時間かかった」
「うん。……そうなんだ」

正直、ケーキが恨めしい。
ケーキは好きだし、彼と一緒にそれを食べられるなら尚嬉しい。
でも、そのせいでトウヤといる時間が減るなら、そんなもの私は必要なかったよ。
そう言えたらいいのに、私を見る彼の顔が微笑んでいるから、やっぱり口には出せない。
……結局は過ぎたことなんだ。私好みのケーキを選ぶために消えた時間なんだからいいじゃない。そう考えたかったけど、「今日だけは」と失われた時を惜しむ自分が、頭の中で何度も同じことを繰り返し考え続ける。

「おいしいね」
「だな」

私がわがままなのはわかってる。高そうなマフラーもケーキも、全部私を喜ばせたくてしたことなんだ。
それでも今日という一日に納得がいかない。そんな自分自身への苛立ちばかりが溢れていく。



「……トウコ、なんか変じゃないか?どうしたんだよ」
「えっ?」

びっくりした。どうして普段は鈍感なのに、こういう時だけ人の異変に鋭いんだろう。
真っ直ぐ送られる視線が痛くて、少し戸惑った。

「……トウヤと、もっといたかったと思って」
「え」

言っていいのかわからないまま、疑問とは裏腹に感情が唇を滑り落ちていく。

「ケーキとかマフラーとか、嬉しいけど。私はそれよりも、長く一緒にいたかったの」
「……そう、か」

自分勝手でめんどくさい女だと思われたに違いない。自分は求めるばかりでなにもできないくせに。
もしかすると愛想を尽かされたかも。そうしたら、私はどうすればいいんだろう?いつのまにか閉じていた瞼を開いたその時、急に世界が歪んだ。

移動した先がトウヤの腕の中だということに瞬時に気付き、安堵した体がいつもの暖かさに身を委ねる。彼の柔らかな匂いが鼻孔に届いた。

「いや、僕もさ。どうすれば喜んでくれるかよくわかんなくて。……なんか、ごめん。そこまでは考えてなかったっていうか」

「ううん、大丈夫。私の方がごめん」


全くわからなかった。
こんなにマイペースなトウヤも、私みたいに悩んでいたんだ。
そう思うとさっきまでの自分がちょっとおかしくて、トウヤも同じなのか照れたように笑っていた。


「今日、泊まるよね?」
「ん」

遅刻したぶん一緒にいたいしな。
彼の呟きを聞き終わった直後、背中に手をあてがわれた。
そのままゆっくり押し倒され、くらくらしそうなほど綺麗な瞳が近付いてくる。
今日初めてのキスは、とても軽かった。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -