20101122こたつ | ナノ


「プール行きたい……」
「……それ、こたつで温まりながら言うこと?」

こたつから与えられるぬくもりで緩んでいたトウコの頬がすっと引き締まり、軽く睨まれる。
感情がすぐ顔に出る彼女は、つくづくわかりやすい奴だと思う。まぁ、今に始まったことではないが。

「いいじゃん、無い物ねだりって奴ですよ。お母さん」
「……プールなら、我慢すれば今でも入れると思う。あとお母さん違う」
「凍え死ぬわ。もういい、来年ベルと二人で行くから。チェレンなんか連れてってあげない」

いくら幼なじみとは言え、年頃の女子二人とプールはさすがに無理があるような。しかもいつの予定だよそれ。そんなことを言えばまた理不尽な理由で拗ねられるだけだろうから、黙っておくことにした。

ああ、でも本当に。もう僕らはいつでも、どんな時でもずっと一緒にいられるわけじゃなくなってしまったんだ。
年頃がどうのこうのというちょっと恥ずかしい理由で、旅が始まってから薄々感じていた気持ちに核心を得てしまった。……いや、それ以外にもあるけれど、深くは語らない。
トウコはすぐそこにいるし、前より容易くはなくなったがベルだって会おうと思えば会える。でも、胸に空いたこの穴はしばらく埋められないような気がした。
大人になっていく過程で必ず何らかの喪失感があると知っていたなら、僕はひょっとすると物事を拒否していたかもしれない。
手遅れすぎて何もかも見失ってしまったから、今更どうにもできないし受け入れなければいけないのだけど、やっぱり違和感はある。
自分から望んで旅に出たことや変化を後悔しているわけではない。この先もそれを感じることはないだろう。ただ、ちょっと情けないが、自分自身の成長や幼なじみたちとの距離感なんかを寂しいと思った。

「……トウヤ今なにしてるかな」
「いつもの奴?」
「うん」

またその話か。彼女から指切りで強引に結婚の約束をさせられるなんてこともあったのに、すっかり変わったものだ。同性のベルにも全く同じことをしていたが。
トウコはきっと、そんなこと忘れているだろうな。
……僕も今のは忘れよう。これじゃトウコにお母さんと言われても否定できない。

「ライブキャスター使えば?」
「むっ……無理に決まってるでしょ」
「そんなに照れられたらこっちが恥ずかしい」
「照れてない!」
「嘘つけ」
「ぎゅわばっ」

トウコの額を指で弾くと、素っ頓狂な声があがる。こたつが熱いせいだし、なんて言い訳をしながらむっくり起き上がられては、改めてわかりやすすぎるという感想しか浮かばない。

「みかん食べるの?」

「あ、皮剥いて」
「……自分でやりなさい」

籠のみかんを一つ取ったと思ったら、僕の鼻先に突き出してきた。おい、眼鏡にぶつけるとかふざけてる。皮剥きをやらせるにしろ、なにもこんなに近付けなくたっていいじゃないか。

「前はよくやってくれたのに」
「自立しろ」
「してるもん」

ならみかんの皮くらい剥けよ。彼女の腕がすごすご引っ込むのを確認して、席を立つ。このままじゃいけないと思った。

「ベル呼んでもいいよね?」
「おっけ」

彼女の方を見てみると、みかんが皮だけに変わっていた。そうとう水分に飢えていたのだろうと思うことにして、異常な行動の早さには触れないでおく。

「あ、ベル?今トウコといるんだけど……ベルも来ないか」
「うん、行く!久しぶりだねぇ、なんだか」

ライブキャスター越しに、ベルはいつもの笑顔を見せてくれた。それをトウコに話すと、「青春だねー」なんて言われたが、べつにそんなんじゃない。
照れくさいから口にはしないが、トウコが笑ってくれていたら僕は嬉しいし、もちろんベルに対してもその気持ちは変わらない。
自分の大切なものなんてたくさんありすぎて把握できないくらいだけど、一つだけ言えることがある。
年齢が変わっても、たまにしか会えなくても、僕はずっとこの二人との関係を続けていくだろうということだ。
凝り固まった戸惑いや感情の矛盾は、これからゆっくり認めていけたらいい。


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