20101111 | ナノ


なんでもないような顔で約束を破ったことを告白され、今日もトウコに謝られる。なんか最近こんなんばっかだな。しかし彼女がおだやかな顔をしているせいか、特に怒りは湧いてこない。そんな気力もない。
謝ってはいるが反省しているようには思えない彼女を見ていたら、自分たちの甘くゆるい約束は一体なんのためにとりつけたんだったか一瞬思い出せなくなり、記憶を探るアローポインターが僕の脳内を駆け巡る。
もし急ピッチでそのデータを掘り返さなかったら、危うく廃棄物として完全に消去されるところだった。
ただ彼女の恋人として仲良くしていく以上、その動作をさせてはいけない気がする。

「トウコ、昨日も忘れたよな」
「うん」
「ま、いいけどさ」

なんてこった、ホントに全然反省してないぜこの女。というかやる気あるのかな。
そう思って見ていると視線を落としてすまなそうな表情をしだすし、もうよくわからない。

「だって私、そういうの書くの苦手なんだもん」
「今更そんなこと言われてもな」

話を持ちかけたのは僕だが、あの時断ることだってできたはず。多分あんまり考えずにOKしたんだな。そんなマイペースなところがトウコらしい。
……僕も僕で彼女への想いの丈を拙い文章でただひたすらに綴っただけだし、やっぱり手紙の交換なんて僕らには無理だったのかもしれないという考えにたどり着く。

邪魔な思考を飛ばすように首を振って、ここにくるまでの経過を少しだけ思い返してみる。
本やドラマの登場人物の感情は、例え予想はできてもそれが正しい保障などどこにもない。友人同士憎しみを隠し合っているかもしれないし、悲しんでいるように見えて本心は喜んでいるかもわからない。感情の憶測によってその人物の会話相手が態度を変えるのは、なんだか一種の駆け引きに似ているとその光景を見ていて思った。あーよくやるなぁ、とも。
要するに僕は、相手の気持ちを想像することが苦手だ。
「チェレンとベルが楽しそうにやってるし僕らも手紙交換をしよう」なんていうのはただの口実で、気持ちのすれ違いを恐れた僕が彼女の本当の想いを知りたかっただけに過ぎない。まぁ、彼女が手紙を、というか本心を書いてくれるかは完全に賭けで、関係ない話をされたらそれまでだとは一応わかっていたが。
それについては、なにも手が無いよりはマシ、直接本人の口からなにかを聞こうとして自爆するよりはいい……と思い込むことにした。
当初は、すぐ会えるしこれと言った用件があるわけでもないのに手紙の手渡しって手段としてどうなんだろう……とすら思っていたが、いざ恐怖が近付いてくると細かいことはあまり気にならなくなるもので、とうとう一昨日彼女に手紙を書かないかと聞いてしまった。そして、今に至る。
結果、実際は本心どころか手紙すら書いてくれていない。

「口じゃダメ?」
「……言えるのかよ」

ポケットに手をつっこむと、封筒と指の擦れる音が鳴る。未だにしまったままの手紙の内容を思い出し、これはとてもじゃないが音読できないなぁ……と思った。それは客観的に見ると、いや作者の自分視点でもとてもクサい文章が便箋四枚に渡って書かれているからだ。
きっと彼女ならどんな手紙でも喜んでくれる。そう思っても、これについてはやっぱりちょっと不安だった。

「トウヤは……うん、まずイケメンだよね」
「……あ、そう」
「あ!普段ちょっとかっこわるい」
「おい」
「ふふ。でもね」

彼女の口端が上がった。
僕の腕に自分の腕をするりと絡ませ、堅く組む。そのまま僕のほうによりかかってきたので、周りに人がいないからいいものの僕はこんなところでなにをしているんだろう……と、うっかり賢者モードに入りそうになってしまった。
そして、なんだろう。こうも一直線に気持ちを伝えられると、今までの自分の考えは全て無駄だったような気がしてくる。結局ただの杞憂だったんだと思い知り、表には出さないが内心とても恥ずかしかった。なんだか喉が枯れそうで、体が熱くなる。

「私を受け入れてくれる優しさとか、大好き」
「……どうも」
「ねぇ、手紙ほしいな」

嫌だとは言えず、汗ばんだ手で差し出した手紙をおずおずと受け取ると、彼女はその場で封筒を開けた。おいバカ読むなよ。空いた左手を彼女の頬に添える。これ以上続けられたら羞恥心で燃え尽きそうだったので、彼女の唇を塞ぐことで発言を遮りつつ異常に高い体温をごまかすことにした。


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