20101019 | ナノ


トウコの髪は長くて、しかもかなりのボリュームがある。
ボクがちょっとでも触れようとするとやたら怒るくせに、その彼女ときたらボクの髪にはお構いなしにべたべたと触れてくる。にこやかに「しっぽー」とか「もふもふー」などと、理解に苦しむ言葉を発しながら。…なにか矛盾しているような。

「これ、抱きまくらにできないかな」

トウコはボクの髪を後ろから両腕で抱えて、ついでに体まで抱きしめてきた。後ろへぐいぐいと引き寄せられると、抱きついてくる彼女の肌はひんやりとしていて、その冷たさにボクは少しずつ体温を奪われる。自分の髪越しでもこんなに冷えが伝わるなんて、一体彼女はさっきまでどんなところにいたのか。

「髪が?」
「そう」

見動きを封じる腕の力は徐々に強くなっていき、終いには胴体にまわされた腕とトウコの体に圧迫され、その苦しさに内臓が悲鳴をあげだした。効果音を付けるならぎしぎしぶにゅう、そんな風に臓物が醜く潰れていく。暖をとりたいのなら上着でも着ればいいのに。


「痛いよ」
「だってあったかいんだもん」

それならそっちからしてよ、と目の前に回りこんでくるトウコに、ボクはどう対応すればいいのだろう。両腕を開け放った格好がなんともまぬけで、不思議な感情が生まれる。
体内時計の長針が指し示す位置はだいぶ進んだけれど、それでもボクはやはり何もできないままだった。
自分でも知らない間にどこかへ向けていた視線を、少しずらして彼女と見つめ合う。射抜くような凛々しい眼差しに捕らえられ、意志の強い瞳孔から目が逸らせない。


「……」
「そんなに私を抱きしめるのがイヤか!」

……ああ、そうか、トウコは抱きしめてほしかったのか。そう理解したのは、眉を大袈裟に下げた彼女がむっとして飛びついてきた後だった。して、と言いながら結局自分から来るなんて。 彼女の望みを知った今さっきから、さりげなく抱擁の準備をしていた腕は宙に浮かせて放置で、起きたまま夢を見ているような気分でいた。
ボクに彼女の行動を読むことはできないらしい。

「そうじゃないよ」

胸で疼く感情の正体は一体なんなのか。脳内をざわつかせる甘い香りが鼻をさす。
そっと彼女の肩に触れると、さっきまでの冷たさが嘘のようにあたたかかった。


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