20101006 | ナノ


転ぶと痛い。しかも公衆の面前だと、恥ずかしい。…まぁ当たり前か。

風を切りながら自転車で進んでいた私は、せっかく気持ち良くペダルを漕いでいたのにバランスを崩したせいではでに転倒してしまった。周りの視線が痛い。誰だペットボトルポイ捨てしたやつ。…確かに私も注意力散漫だったけど。
擦りむいた肘からは血がだらだらと流れていて、数秒置きくらいに雫が落ちては道路にぽつぽつと赤黒い点を残す。
とりあえず止血だけでもしたかったが、困ったことに今はティッシュもハンカチもない。

「うーん…まぁいいや」

服で拭いちまえ。そう適当な勢いで実行しようとすると、肩にぽんと軽いものを乗せられる。

「どうしたの」

振り向くと、そこにはNがいた。肩には彼の手が乗せられていたようだ。
つくりだけは整っている不健康そうな白い顔で、口元に薄く笑みを浮かべている。…どうしてここにいるのかはともかくとして、私は彼のこの表情が好きだ。

「ちょっと擦りむいちゃったんだ。」

「…ついてきて」

…自分でどうしたのかと聞いてきたくせに、なんだか脈絡のない返事だ。




彼に言われるがままついていく先にあったのは、ぽつんと設置されているただのベンチだった。彼が座ったので、私も座ることにする。…一体なんの用事だろう。
すると彼はどこに持っていたのか、いきなりティッシュとおいしい水、そして消毒液を取り出す。


Nは私の顔を見ながら、新品のティッシュを開封、さらにおいしい水の蓋も開けたようだ。

「肘をこちらに向けて」

言われて肘を差し出すと、彼は濡れたティッシュで傷口を丁寧に拭き始めた。消毒が少ししみる。そういえばNって何歳なんだろう。チェレンも同い年だけどそこそこ大きいし、身長じゃ年齢ははかれない。雰囲気からすれば、確実に私より年上だとは思うけど。
そんなことを考えていたら、仕上げのように傷口に(これまたどこから取り出したのかわからない)絆創膏を貼られた。

「お大事にね」
そう言いながらなぜか手を握られる。もしかすると私が勝手にそう思っているだけかもしれないけど、壊れ物を扱うようなどこか優しい触りかたに、羞恥を感じた。
これは握り返すべきなのか。

「……えーと、ありがとう」

結局、ただ傷の手当てをされただけだった。
いつも変なことを言っているおかしな人だけど、意外と優しいところもあるんだ…と思った。いや、だからってべつにどうもしないが。

「礼はいらないよ」

手を離される。
もっと握っていてほしかったなんて思うのは、どうしてなんだろう。




じっと自分の手を見つめていたら、いつの間にかNはいなくなっていた。辺りを見回しても、あの長い緑髪はいない。

周りの雑音にまみれることなく、自分の鼓動の音だけがただはっきりと聞こえていた。

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