雨田 | ナノ
※HGSSライバルの名前はとりあえずシルバーにしてます


どうしてこいつは、いつも平気な顔をして俺に近付いてくるんだ。俺が近付くと嫌な顔をするのが人間で、俺を見かけたら離れていくのが人間とさえ思っていたのに。今まで生きてきて出会った人間にしてきたのと同じように接しているが、コトネだけは俺を拒まないし寄ってくる。
常識を覆されるのは恐ろしい。恐ろしいけれど、コトネは疑う予知もなく、本物の人間だ。
こういう奴の存在を、俺はコトネ以外知らない。

「……いつまでそうしてるつもりだよ」
「ごめん!でも……っわ」

灰色の空を縦に割るように、白い亀裂が走る。一瞬で消えたかと思えば、何よりも先にコトネの「うう…」と呻く声が聞こえる。次いで耳をつんざく雷鳴が響いた。
雨だけは先刻までの勢いを失いつつあるが、こいつの苦手としているものはまだまだ収まらないみたいだ。その証拠に、上空のあちらこちらで光が散っている。あと数秒もすればまた、俺の服を引っ張ってこいつが怯えるのだろう。やめろと言っても離れないこいつを、早くどうにかしなければならない。
必要以上にくっついていてはいけない気がした。誰かと、というよりはコトネと。

かれこれ十分以上は経っているはずだが、こいつときたら、いつまで経っても俺から離れるそぶりを見せないまま落ち着いてしまっている。
こうなったら、と自分の服の裾に纏わり付いている指を無理矢理引きはがして、コトネを突き飛ばす。すると勢いが強すぎたのか、奴は床に転がるようにして倒れてしまった。……いや、倒してしまった。
やってしまったとは思ったものの、幸い、そんなに痛そうにしてはいなかったので安心した。…自分で倒しておいて安心というのは何かおかしい気もする。地面を刺すようにして降る雨が、今度はコトネを貫いていく。


……自分がそうさせた手前、平気な顔で手を差し出すのは何か違う。でもこのまま放っておいていいのか。よくないだろ。俺がなにかしなくても自分で立ち上がるのでは。
そうして、何もせずにいるための言い訳のようなことを考えながら躊躇っていると、床に伏したままのコトネが口を開いて俺に尋ねてきた。

「なんでシルバーっていつもそんなに冷たいの?」

「……べつにそんなつもり…」

素直に答えるつもりなどなかったのに口が勝手に動いていて、ハッとした。咄嗟に片手で口を覆うと、驚いた顔をしたコトネが食い入るように俺を見つめる。なんだこいつ……いつのまに立ち上がっていたんだ。
少し嬉しそうな顔が、心臓の辺りを痒くさせる。自分を突き飛ばしてきた人間相手に、何故そうやって笑っていられるんだ。心臓が痛い。
誰でもこうなるものなのか。それとも俺だけが、こいつだけに。

「え、じゃあ、シルバーって……」
「何だよ」

「私のこと嫌いなわけじゃなかったんだね!」
「!?」

意味がわからなかった。
なんのためにこんなことをきくのかも、そもそもそんな質問に俺が答えなければいけない理由も、仮に嫌いじゃないと答えたとしてこいつはどうするつもりでいるのかも、全くわからない。何もかも。

「どうなの?」

強引に引きはがされ、突き飛ばされたばかりだというのに、何故。コトネはまた俺の服を引っ張り、体をくっつけてくる。やめろと言ってもきかないし、しつこいし、こいつは確実に周りから嫌われるタイプだろう、きっと。自分の人間性についてを棚に上げてしまえば。
しかしコトネには、それでも俺が嫌えないほどのなにかが。…あるのだろうか。

「お前……」

「…あ、か、みなり」

忘れた頃になってまた、一段と大きな雷鳴が轟いた。指が服を離れて、今コトネの腕は俺の背中にまわっている。
コトネの服と俺の服を通じて、雨の湿り気が肌に染みこんでいく。

「え? なに?」
「……何も」
「そっか。あ、雨止んだね」

そう言うとコトネは途端に俺から距離をとり、雨の去った空を仰ぐ。さっきまでのくっつきようはなんだったのか、疑問に思うほどだ。
俺にはできない。
こいつを嫌いだと言うことも、嫌いじゃないと言うことも。
ましてや、少し、
本当に少しだけ、好意を持ちはじめてしまっている……なんて口が裂けたって言えやしないだろう。コトネという人間も知らなければ、この気持ちもまだ理解できない。
だって今は、顔を直視することさえ不可能だから。

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