20120818キメヒ | ナノ

僕は人の感情に鈍感なやつだけど、メイちゃんが恋をしていることには気付いていた。サブウェイで一緒に戦っているときのメイちゃんは並の男性より勇ましい顔をするので、一緒に戦う仲間の僕でさえちょっとたじたじするくらい……なのに、恋のお相手だと思われる幼なじみの話をするとき彼女は、終始笑っているから。さすがにこれだったら、鈍い僕でもわかる。

にこにこ微笑んでいる姿をずっと見ていると、彼女がかわいく思えてしまうのは、戦闘時とのギャップのせいだろうか。
あんまり嬉しそうに頬を緩ませるので、僕はそれ以外の表情を忘れかける。僕がたじろいだ、あの表情でさえも。

「メイちゃん、その人が大好きなんだね」
「えっ? 違うよ。本当にそんなんじゃない」
「照れなくてもいいよ」
「だから……もういい。キョウヘイのバカ」

耳まで赤く染めた彼女が、そっぽを向いてしまう。恋する乙女は難しい。好きだって認めることは、そんなに恥ずかしいのかな。幼稚園児時代以来誰かに恋愛感情を抱いたことのない僕には、到底わからないことだった。
僕らくらいの年齢になれば皆、恋をしているのかもしれないけど、定期的に話す女の子がメイちゃんくらいしかいないし関係ないか。どこでどんな出会いがあるかわからない……それでも、そんなすぐ恋愛にまでは発展しないだろうし。

「キョウヘイは、好きな子いないの」
「ん? メイちゃんとか」
「いや、そうじゃなくて」
「じゃあどういうこと?」

口ではこんなことを言っているけれど、まぁ、彼女のききたいことはちゃんと理解できていた。僕にそんな相手はいない。
でも、いないとはっきり言いきってしまうのは、なんとなくつまらないかなと。そう思ったのだ。それに、メイちゃんを好きなのは、友達という意味ではあるけれど本当だから。
彼女と幼なじみの間に僕が入る隙がないことも、勿論わかってはいた。入るつもりなんか最初から無いにしろ。
彼女がそういう意味で好きなのは、僕じゃない。

「私みたいに、その、さ。わかるよね?」
「わかるよ。だから、メイちゃん」
「なに?」
「そういう意味で好きだよ、って」


言った直後に後悔した。
なんで僕はもうちょっと、先のことを考えられないのだろう。馬鹿だ。
彼女に冗談を言うことは滅多になかった、ということを僕は今になって思い出して、頭を抱えたくなった。キャラじゃないことはしないほうがよかったんだ。
見ろ。僕の馬鹿げた冗談を信じきったメイちゃんの目が、眉が、困り切っているじゃないか。……負けた。

「ごめん、嘘だから、そんな顔するのやめてよ」
「……あ、そ、そうなんだ。 やだな、そっちこそ、変なこと言うのやめてよ」
「うん、ごめん」
「いいよ。で、本当は? いるの? いないの?」

メイちゃんがいい子でよかった。いや、本当によかった。
でも……でも、さっき彼女が困った顔をしたとき、どうして僕は胸が痛んだのだろう。後悔とは少し変わった、負に満たされた疑問が浮かび上がる。
つまらないことでメイちゃんを困らせてしまったから。それだけだと思うのに、心のどこかで違う、と否定している自分がいて、気持ち悪い。否定?
僕は、自分自身の気持ちにさえ鈍くなっていたのだろうか。いつから?
答えられない自問を無視し、メイちゃんの問いに答えた。彼女の髪が逆光できらきらと目を焼く度、この光景を写真におさめられたらと思う。僕はいったい、どうしてしまったのだろうか。
メイちゃんはもう笑っている。よかった。

「ほんとにいないよ」
「…そっかー」
「うん」

僕の返事をきいた彼女が、ヘラヘラ笑う。楽しそうに。僕もつられて笑う。楽しく。
そういえば。笑えば、楽しければなんでもいいや、とか、そんなことを思ってしまうのは、僕の悪い癖だった。
それをまた、今になって思い出す。最近しなくなっていたことを、どうしてこんなときにやってしまうんだよ僕は。

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