僕たちは、地下の部屋に住んでいた。
マリーと僕、それから時々食料を運んできてくれる家政婦だけが此処の存在を知っている。
私たちは隠れるべき存在というわけではなく、此処にいるのもただマリーが「地上なんてXXだ!!」と叫び、ある真夜中に家を出てそれっきり、ここにいる。
マリーは僕が幼い頃から外を嫌い、外で遊ぶとしても暗い路地裏のような、人気のない場所を好んだ。
誰かが来るとすぐに隠れ、そのまま家に戻る。
僕はその行為の意味がよく分からなかったが、それでも幼い頃は従っていた。
しかし、今の僕はもう幼くはない。否、大人になりかけている。
それなのにマリーは。
仕方無いので今まで僕はノートに「外へ出たい、もう此処にはいたくない」と言ったことを書き綴り続けていた。
今までは見つからないよう隠していたが、昨日、うっかり机の上に置きっぱなしにしておいたのだ。
もし見つかっていたら、マリーは今頃僕を怒鳴りつけるだろう。

「あんた此処から出たいって本気なの!?」
案の定、マリーが立っていた。
「だって外の世界なんて、犬と豚と亡霊だけなのよ!」
「・・・でも」
「何よ?」
「このまま此処にいたって、生きることなんてできないじゃないか!」
「お馬鹿さんねえ・・・。私たちが死ぬ?そんなわけないじゃない。外に出た方がもっと早く死んでしまうわ。」
「マリーは気づいてないのか?最近シャルロット(家政婦の名だ)が前より来なくなったじゃないか。彼女が来なかったら僕らは飢え死にしちまうんだぞ!」
「でも、まだあるじゃない。」
マリーは楽観的に言った。
「どうして、此処に籠もってるんだよ」
「だって・・・外は・・・」
「変わったかもしれないだろ!それに・・・」
「それに?」
「外の上澄みは、少なくとも綺麗だと思う」
「何で?何でそんなこと分かるの・・・シャルロットね?あの家政婦、辞めさせてやるわ!」
マリーは激怒して出て行った。
確かにシャルロットに書物や新聞を頼んだのは事実だ。それにしても、何故マリーはそこまで外との接触を断つのだろうか?
だがもうその理由を知りたいとは思わなかった。
いや、それよりもっと大事なことがある。

この部屋の出口が何処にあるかは知っているが、マリーの監視が強くて近寄ることすらできなかった。
しかし今なら、何処へでも行けるような気がした。
そうなったら、行くところはただ一つ。僕はマントを着て、出口へと近づいた。

「何処へ行くの?」
見つかってしまった。しかし、動揺はしなかった。
「外へ出るんだ。」
「何を言ってるの?ねえ、貴方は正気?」
「ああ。狂気はそっちだろ。こんな狭い地下で過ごしていくなんて。」
僕はそのまま出口のドアへと向かった。
「ねえ行かないで!外なんてダメよ!毒薬の塊よ!」
マリーがナイフを持って追いかけてくる。
幼い頃、路地裏に捨ててあったのを拾ってきた、壮麗な装飾のやつだ。
僕は短銃を握って駆け出す。
その銃も同じく、路地裏から持ってきたもの。
曲がりくねった道も、階段も駆け上がった。
「ねえエティエンヌ、戻ってきてよ!」
マリーもその後を追いかけてくる。
やがて、距離が縮まり、振り返るとすぐ近くにマリーの姿があった。
「どうして?エティエンヌ、外に出るくらいなら・・・」
もうこのままでは刺されてしまう。しかし、助かるためには、僕は罪を犯さなければならない。
しかし、もう躊躇などしなかった。

「自由が欲しいんだ!」
と力の限り叫んだ。
そして引き金に指をかけて、最後の弾を撃った。
当たったかどうかは解らないが、そのまま思い出の銃を投げ捨てて走る。
これまでの思い出が走馬灯のように頭をよぎった。
マリーのことは憎んでいたが、それでも姉弟として愛していた。
気まぐれな人だったから、疎まれたこともあったし、しかしそのすぐ後に抱きしめられることもあった。
僕はマリーとこの生活を呪ったこともあったし、それでも無事にいられますようにと祈ったこともあった。
だが、外を夢見た気持ちだけは消えなかった。
それが、どれだけの犠牲、流血を伴おうとも。

光が目に映る。
そう、外へと出たのだ。
もうマリーは追いかけてこない。
切らした息を整えつつ、辺りを見た。
変わっていないように見えて、少しは変わっているのだろう。
冷たい風が頬を通った。
その冷たさに僕は、
強いくらいに生きたいと思った。

そう、まだ僕の命はまだ残っている。



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「戦慄の子供たち」から創作しました。
全然歌詞が生かし切れてないですね・・・
タイトルはそのまま、フランス語で「恐るべき子供たち」です。
まあコクトーの小説のタイトルにもなってますからね。

DILETTANTES EXPO 2013からいらした方で、サイトをご覧になりたい方がいましたらこちらからどうぞ。
(ちなみに二次、歴史創作文章サイトです)



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