ごっくんとヴィル君とジャック
「うけけけぇ!」
「やめろ極卒ーー!!!!!!」
ある晴れた昼下がりの事でした。
ヴィル君が自室ですやすやとお昼寝をしていると、
突然ごっくんが縄を持って現れました。
勘の良いヴィル君はその気配にすぐ目を覚ましたのですが、
ごっくんは既に目の前に居て縄をびしびしと伸ばしていました。
ヴィル君は思いました。
(…絞められる…!)
必死に逃げようとするヴィル君ですが、ごっくんは易々と逃がしてくれる相手ではありません。
ガッシリとヴィル君の片手を掴むと今にも襲って来そうなくらい。
いつも不気味な笑みが更に不気味に歪んでいました。
こうなるとごっくんを止める術はありません。
ヴィル君はただごっくんに遊ばれるだけのオモ…
「何やってんだ極卒」
と、その時でした。
開いていたドアの向こうからジャックが現れたのです。
「ジャック!」
助かった!
ヴィル君はそう思いました。
「何遊んでんだよ。
早く仕事に行こうゼ」
親指を立て外を示してジャックは先を促します。
ヴィル君とごっくんとジャックは、どこかの殺戮部隊の人間です。
今日も人を殺しに行かなければいけません。
「ホラ、行くぞ」
ジャックは壁に押し付けられていたヴィル君の手を取りました。
ごっくんを押し退けて。
「、何するのさジャック。
今から僕はヴィルと遊ぶんだから邪魔しないで欲しいね。
仕事行くなら一人で行けば良いよ」
ぷん、と頬を膨らませると、
今度は押し退けられたごっくんがまたぐいっとヴィル君の腕を掴みました。
ジャックを蹴って。
「…お前、前からいけ好かねェと思ってたが本気でムカつくな」
「それは僕だって同じだよ」
バチバチ。
ごっくんとジャックの間で火花が飛び散ります。
「…よし、ジャック。
仕事に行こうか」
2人に挟まれたヴィル君は居た堪れなくなったのか、
取り敢えず正しい事を言っているジャックの方に付く事にしました。
「よしきた」
「え゛ーっ、僕と遊んでくれないの!?」
「極卒、仕事は仕事だ。
私達は今から行かねばならんのだ、我が儘言うな」
こんな立場ですがヴィル君は一応2人の上司なのです。
たまには格好良い事を言いたいのです。
しかしごっくんの思考に上司も部下もへったくれもありません。
「やーだやだやーだぐうぅぃい!!!!
僕はヴィル で 遊ぶんだー!」
ごっくんはバタバタと手足を振って駄々を捏ねます。
でも仕事は仕事。
今から殺しに行かなければいけないのです。
「五月蠅い!
終わったら構ってやるから征くぞ!」
「ひょっ!?」
あまりにも五月蠅かったのでヴィル君はそう言ってごっくんを宥めました。
「うん、解った征く征くー」
そしてその言葉に漸くごっくんはにんまりと笑って了承したのでした。
でも、その時のヴィル君は自分が失言していた事に気付いてませんでした。
その夜。
ヴィル君は今日の疲れを取る為に自室で寝ていました。
ヴィル君はコレでも一流の魔術師です。強いのです。
でもまだ身体はちっちゃいのでそんな強い魔力を使うとすぐに疲れてしまいます。
今日も、沢山殺しました。
今日も、沢山血を浴びました。
今日も、沢山の叫びを聞きました。
ヴィル君は、段々と深い眠りに…
「ヴィールー!」
就けませんでした。
「……ごく、そつ?」
その声と勝手に点けられた明かりに目を覚ましたヴィル君は、
眠い目を擦りながら体を起こしました。
そして目を丸くしました。
「約束通り遊ぼうよー」
そう言ってごっくんが取り出して来たのは、
とても口に出しては言えない様な物と、
とても人間に対して使う物では無い物でした。
「…極卒…何を…」
「仕事終わったら遊んでくれるって言ったじゃん。
だから張り切って色々用意してたら遅くなっちゃった」
「…いや、そうでは無くて何を…」
「コンパクトにしてあげるねェ」
最早ごっくんを止める事は出来ません。
そして話も通じません。
「朝までフィーバーーーー!!!!!!」
「ギュアアァアアアアア!!!!!!!!!!」
ヂュィィイインと、ヴィル君の部屋から変な音が聞こえてきます。
でも大丈夫です。
ヴィル君は平気なのです。
ヴィル君は死ぬ事は無いのだから。
だから何をされようが大丈夫です。
最強なのです。
ヴィル君の断末魔とごっくんの笑い声と奇妙な音は本当に朝まで続きました。
しかしその音は助け船であるジャックに届く事はありませんでした。
「アーミィどこ行った糞があぁあああ!!!!!!」
ジャックは仕事先で見掛けた憎きアーミィを追い掛けて行ってしまっていたのです。
ヴィル君は思いました。
(…皆勝手だ…)
上司としての威厳はどこへやら。
ヴィル君は今日も部下に振り回されるのでした。
終わり。
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