赤ヘルと勘違いと鷹の眼と


 


それはとある下校時間の事でした。

「♪〜♪♪〜」

今日は学校がいつもより早く終わって、
ハヤト君はご機嫌な調子でスケボーを走らせていました。

早くヒュー兄に会いたい。
今のハヤト君の頭の中はそれだけです。

通学路の途中に公園があります。
ヒューさんの家に向かうにはこの公園を通った方が早いので、
ハヤト君は一度スケボーから降りると、公園の中を走っていこうとしました。

しかし、その時です。

「アーミィ覚悟ォォォオオオ!!!!!!」
「…へっ?」

いきなり上から声が聞こえたかと思うと、

「うひゃあ!!!!」

ドーンと、目の前に黒い何かが落ちて来ました。
反動で舞い上がった砂煙に視界を奪われます。

「…チッ、外したか」

と、その陰からまた謎の声。

「運が良かったな、アーミィ」
「…?」

風が吹いて砂煙が落ち着くと、
そこにはガスマスクを付けた見た事の無い青年が殺気丸出しでこちらを見ていました。
色素の薄い髪。マスクから覗く眼光は鋭く、それはまるで獲物を狙う鷹の眼の様。

「やっと捕まえたゼ」
「ひっ」

ガシッ、といきなり手を掴まれます。
今迄味わった事の無いその気迫に押されそうで、
怖くて、今にも殺されるんじゃないかと、そんな事が頭を巡ります。

「…って、アレ?」

と、その青年はハヤト君をまじまじと見たかと思うと素頓狂な声を上げて首を傾げました。

「何だお前…アーミィじゃねェの?」
「…ぇえッ…?」

ハヤト君も首を傾げました。

「…あの、僕、アーミィって人じゃなくてハヤトって云うんだけど…」
「あ、そう。スマン。人違いだ。」

さっきの殺気はどこへやら。

「…ったく、何で赤ヘルなんて被ってやがんだよ…」
「…ぁ、赤ヘル?」

青年はボソリと呟くと、ひょい、と片手を上げました。

「じゃーな」
「あ、えっ、ちょ…」

そして軽く謝罪をすると、

「…わっ」

こちらに背を向けたかと思うと、タン、と地を蹴って空高く跳んで行ったのでした。

「…何だったの、今の…」

いきなりの出来事に思わずそこでハヤト君は立ちすくみます。
あっという間の事でしたが、いかんせん内容が濃過ぎて何も把握出来てません。

「…赤ヘルが、何?」

全く把握出来てません。


「はぁ?! 何だそれ!?」

あれからハヤト君は当初の目的を思い出すと、
ヒューさんの所へと向かい、この出来事を話しました。

「あっ、でも別に平気だよっ! 特に何もされてないし」
「何かされてたら俺そいつぶん殴るだけじゃ済まさねェわ」
「何する気!?」

話すや否やヒューさんも殺気立ってましたが、
心配してくれての事なのでハヤト君は怖くありません。
寧ろ嫌に真顔なヒューさんを見て逆に心配になりました。

「でもそいつホント怪しいな…ガスマスクとか」
「うん…見た事無いし声も聞いた事無いよ」
「まァ人違いだったみたいだしな…」
「赤ヘルがどうのって言ってたけど…」
「赤ヘル?」

取り敢えず今あの青年について気になるのは赤ヘルへの言動の事です。
ハヤト君がスケボーに乗る時は必ず被ってるあの(ヒューさんお手製の)赤ヘル。

「赤ヘルが探してる人の目印なのかなァ」
「赤ヘル被ってる奴なんてそこらのバイク乗ってる奴にゃごまんと居るっつーに」
「そうだよねェ」

とまァ、考えてもあの青年については何1つ分からないのですが。

「取り敢えずハヤト」
「んー?」
「次もしまたそいつにあったら俺を呼べよ。マッハでボコりに来るから」
「ぅ、うん…」

真顔でそう言うヒューさんの目も獲物を狙う鷹の眼の様で、
流石に怖くなったので取り敢えずこの話はお開きにする事にしたのでした。


 


「、遅かったなジャック…今迄どこ行ってたんだ?」
「ん、いや」
「どーせまたアーミィ追っ掛けて失敗したんでしょお?」
「るせー黙れ七三」

カチャリ、と青年が部屋の戸を開けると、中には仮面を被った少年と不気味に笑う黒い軍人が居ました。

「またか…。アーミィを追い掛けるのも別に良いが、こっちの仕事も忘れるな」
「はいはいわーってますよ」
「ヴィル〜、コイツ早く解雇しようよー」
「貴様だけじゃ頼りにならんからな極卒」
「ぐぅい、酷いよヴィルー」

薄く漂う血の臭いにはもう慣れています。
ここが青年の本来の居場所。

「あ、ねぇねぇジャック」

軍人がケラケラ笑いながら青年に問いました。

「外は楽しかった?」
「…」

青年はそれをシカトしましたが、
不図、今日あった事を思い出します。

「赤ヘル被ってる奴って…いっぱい居るんだな…」

その中の1人とまた関わる事になるなんて、
今の青年には思いも因らないのですが。




楽しい下校の時間。
今日のハヤト君は途中で出会った翔先輩と一緒でした。

「でねー、こないだタローさんが…」
「マジでー?」

キャッキャウフフと周りに百合の花が咲いてる雰囲気の中、

「今度こそアーミィ覚悟ォォォオオオ!!!!!!」
「…っへ!?」

それを打ち壊すかの様に空から落ちて来た黒いそれは…



end?



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