夢か現か妄想か
「僕は気付いた! 夢の中でなら何だって出来るんだと!」
「何をほざいてるんだ極卒」
「普段のヴィルが↑こんなんだからいつもネタが無いんだ!
だから僕は今から寝る! おやすみ!」
「よしそのまま二度と起きて来るんじゃないぞ」
そして僕は夢の中へダイブした。byごくそつ
「イヤッッホォォォオオォオウ! 夢って素晴らしいNe!」
それはそれは世界の果てまで届く様な大きな雄叫びを上げた極卒の周りには一面の花畑が広がっている。
タンポポに百合にトリカブトにラフレシア。
桜に紅葉にヒマワリにスミレ。
かと思えばパック●フラワーやウツ●ット等がひしめき合っている。
季節感なんて更々無い。
そんな極卒に寄り添う小さな陰が一人。
「おはながきれいだね、ごくそつ(はぁと)」
ヤケに舌っ足らずな媚びた声。
濃いピンクの髪を持つその子は、現実世界では有り得ないひらひらロリロリな格好をし有り得ない喋り方で有り得ないくらいに極卒にくっついてニコニコしている。
「そんな事無いサ、ヴィルの方がよっぽどキャ?ワ!イイvよ」
「きゃっ、そんなごくそつったら…ヴィルはずかしい(はぁと)」
……念の為にもう一度言っておこう、
ここは極卒の夢の中である。
「あぁ、現実ではツンツンして全くデレてくれないヴィルだけどいやいやそこも良いんだけどそんなヴィルがこんなにお淑やかになって僕にくっついてくれるなんてハァハァはっはー今僕は幸せだ幸せ者だよーぅひょっひょっひょっほほー!」
突っ込める人間も居ないので最早極卒を止める事は出来ない訳で。
否、夢なのだから実害は無いのだが、これはこれで気色悪い上にヴィルヘルムにも尊厳と言うモノがある。
それに極卒の事だ。
夢と現実をごっちゃにする危険が無くは無い。
それはそれでネタにはなるが。
「よぅっしヴィル、今から結婚式だ!」
「なにいってるのごくそつ? こないだけっこんしきあげたばかりでしょ(はぁと)」
「ひょ?」
極卒は驚いた。
結婚式云々よりもいつの間にかヴィルヘルムが裸エプロンな事に。
「ねぇごくそつ……いつもおつかれさま(はぁと)」
「びっ、ヴィル……?」
そんな漢の浪漫とも言える格好のヴィルヘルムは、
いつもなら有り得ない悩ましげな表情をし、有り得ないくらいに艶めかしいポーズをして極卒ににじり寄る。
幾ら夢だと解っていてもそれはそれ。極卒も男だ。
「ごはんにする? おふろにする? それとも……(はぁと)」
「ヴィルを食べて一緒にお風呂入って洗いっこして夜の世界に逃避k」
――ガツン!
そこで鈍い音と後頭部への痛みで極卒の夢は覚めた。
「貴様は一体どんな夢を見ているのだ……!!!!」
「……ひょ?」
極卒はキョロキョロと辺りを見渡す。
すると目の前には凄い剣幕で握り拳を作る普段のヴィルヘルムが居た訳で。
「アレ、裸エプロンでキャ?ワ!イイvヴィルはどこ?」
「貴様そんなもん見てたのか」
「やっだなァもうヴィルたんったらァ、もう結婚式済ませたの・に!」
「まだ目覚めて無い様だな」
未だ夢と現実の狭間に居るらしい極卒に半ばキレかけてる(否既にキレてる)ヴィルヘルムだが、
まァ落ち着け。極卒の奇行は今に始まった事じゃない。
「一生寝てろ」
「ぐぅぃいい!!!???」
落ち着いて深呼吸したヴィルヘルムは、最大級の力を込めて極卒へと鉄鎚を下したのだった。
「――……は!? 此処は何処!?」
ヴィルヘルムの鉄鎚に気絶した極卒はまた夢を見ていた。
「ぐぅい、ヴィルったら激しいんだからもう」
そう言いながら頭を擦り起き上がる。
地面は土と草。辺りは木。
どこか辺境にヴィルヘルムと逃避行にでも来たのだろうか。
そう思い周りを見渡す。
人の声。
「ひょ、学校?」
目の前にはグラウンドが広がっており、離れに白い校舎がある。
ここはグラウンド隅の茂みだった様だ。
さぁいざゆかん!
薔薇色の学園青春ライフでのヴィルとのメモリーを作る為に!
「おや、そんな所で何をやってるんですか極卒」
「……ひょ?」
光輝く未来へ駆け出そうとしたその時だった。
横から聞き慣れた声。
「……に、兄さんが何故僕の夢の中に……!!!???」
極卒は元から丸い目を更に丸くして驚いた。
それもその筈、
ここはヴィルヘルムといちゃいちゃ遊ぶ為の夢の中。
邪魔な人間は居ない筈だ。
しかしそこには金の髪を輝かせ何故か白衣を羽織り眼鏡を掛けている、極卒の兄――國卒が居た。
「いやァ、先程たまたま現実のヴィル様にお会いしましてねェ
何やら極卒が阿呆な事を仕出来してると聞いたものですから。
面白そうなのでこの、“他人の夢乱入君〜Ver1.5〜”を使って貴方の夢の中に入ってみた次第です」
ひょっひょっ、と笑いながら國卒は白衣のポケットからドラ●もんよろしく謎の道具を取り出して笑顔で極卒に見せ付ける。
國卒は変な研究とか怪し気な事が大好きな所謂マッドサイエンティストなのだ。
きっとその変な器具も自分で造った物だと思われる。
「ぐぅい、幾ら兄さんでも僕とヴィルのピンク色の学園生活の邪魔はさせないよ!」
「いやいや、邪魔なんてしませんよ」
「ほ?」
ニヤリと笑う國卒は明らかに何か企んでいる。
「この極卒の妄想内のヴィル様をビデオに収めてまァ何やかや色々と利用しようかと」
シャキーンと言う効果音と共に取り出したのは高性能ビデオカメラ。
「どうせ貴方の事です。
ロリロリきゃるんでミニスカサイハイソックスなセーラー服を着たヴィル様でも妄想してるんでしょう」
「兄さん……!」
「これを使ってヴィル様のあられもない痴態を晒してしまえばあの人もきっと……!」
「兄さん素敵愛してる最高ーーーー!!!!!!」
と、そこで目が覚めた。
「……ほろ?」
そこは薄暗い個室の様だ。
背中に当たる地面が冷たい。
「アレ、此処何処? セーラー服美少女戦士ヴィルたんは?」
「やっと起きましたか」
「に、兄さん!?」
キョロキョロと辺りを見渡しているとどこかから現われたのは國卒。
極卒は先程とは打って変わって瞬時に現実に戻った。
何かそこにあるオーラがおかしかったから。
「いやー、夢で云々なんて我が弟ながら阿呆ですねー
貴方のその可笑しな思考回路がどうなってるか調べたいものです」
「え゛」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、國卒はゴソゴソとズボンのポケットを漁り出す。
そして取り出したのは謎の電極。
「に、兄さん……? 付かぬ事をお訊きしますがその電極は一体何でありましょうか……?」
國卒は答えない。
「いやあの、お、お兄様……」
やはり國卒は答えない。
しかも今度はどこからか大きな器具を運び込んで来た。
「くぅい! 僕で実験はやめてーー!!!!!!」
「ひょひょひょひょひょひょひょひょ」
それからは筆舌に尽くし難い光景が広がった。
断末魔の叫び。不気味な笑い声。
謎の機械音と電子音。
『それはまるで地獄絵図の様だった』
目撃者のW氏が語った。
そしてそのまま夜が明けたのである。
「――……はッ!!!???」
極卒は目が覚めた。
「……い、今のは……夢?」
起き上がり辺りを見渡し自分の身の安全を確認する。
無傷だ。
今迄の事は夢だったのだ。
「……ほろ……よ、良かった……
今のは夢、夢だったんだ!
助かったーーーー!!!!!!」
久し振りに朝日が綺麗だと思った。
この青空の下を駆け回りたくなった。
極卒の気持ちは晴れやかだった。
「今日は一段と元気ですねェ、極卒」
「ひょ、兄さん」
室内をパタパタと動き回っていると、國卒が現われた。
さっきの恐ろしい夢の中の恐ろしい人物であった國卒だが、
基本的に兄の事を慕っている極卒は彼に何でも話したがる性質である為、いつも通りの笑顔でその張本人の元へ駆け寄った。
「ねェ兄さん聞いて聞いて。
さっき変な夢見てサァ」
「ほぅ、それはそれは」
しかし浮かれていた極卒はその國卒が不気味な笑みを浮かべたのに気付いていない。
「……それはこんな夢でしたか?」
「……ひょ?」
國卒の台詞に不図彼の顔を見上げた極卒が見た物は……
「ぐぅぃいいいいいいいくぁwせdrftgyっふじこlp;@:」
「ふひょひょひょひょ」
またも電極を持った恐ろしい兄さんなのでした。
これは夢なのか、それとも……?
[戻る]