ネット通販で毎月購入しているものの中で最上位に入るのは間違いなく胃薬だろう。 今日も今日とて生徒会に振り回されている哀れな副会長、秋野要はため息をついた。力の入れ過ぎで先ほどからシャ―芯が何本も御臨終されているが、今の彼にとっては気に留めるほどでもなかった。目の前の問題児に比べたらそんなのは些細なことだ。
「会長…、どちらへ?」
「あ?どこに行こーと俺の勝手だろ?」
放課後生徒会室から出ようとする会長を制するのは日常茶飯事だった。この会長は仕事はできるがそれ以外のことはちゃらんぽらんである。仕事が終わってからなにかをしようとするのは大いに結構だが、それで遊び歩かれてはたまらなかった。 ここ明慶学園は全寮制男子校である。各業界のさまざまな子息があつまるここは特殊な空間であり、いわゆる同性愛というものは当たり前にはびこっていた。そしてそんな中でも美形というのは学園中からちやほやされるものであり、超がつくレベルになってくるとなんとその者を慕う親衛隊なるものまでもが存在する。要の目の前にいる明慶学園会長、一音昂也もそのうちの一人であり親衛隊以外にも学園中にファンを抱えている存在だった。 そんな昂也が放課後出歩くとどうなるか、他の者はそりゃあもう普通に生活できたものではないだろう。いつでも最大の注目を集める彼はいるだけでトラブルの元だ。そんな彼を生徒会室から出すわけにはいかない要だが、大体いつも押し切られてしまう。彼に他人の注意を聞くという選択肢が無いのだ。この学校はその異常な環境ゆえに、生徒会がルールだった。 要は頭を押さえる。頭痛薬も買うべきなのかもしれない、とわりと真剣に検討しながら。
「んじゃあ、そういうことで」
「あっ、会長!戻ってきてください!会長!」
止めようと伸ばした手が虚空を掴む。鼻歌まじりに出て行ってしまった会長を今更追いかけてもどうしようもなかった。
「副会長も大変だねぇ」
「そう思うなら成那先輩もお仕事をなさってください」
生徒会会計、相崎成那は唯一の三年生であり、一番頼りのない人物である。サボりの名人というか、仕事をしているのだが手を抜くのがうまいのだ。
「僕はこれから昼寝の予定なんだよね」
「ほう、俺が寝させるとでも?」
「眉間にしわを寄せると取れなくなるよ要君」
「誰のせいでしょうか」
「誰だろうね」
お前らだよ、と叫ぶキャラでもない。要は目線だけで訴えておいた。 ちらっと、その成那の隣に座る無口な少年を見る。しかし彼は彼でこの状況になにも言わず、読書をしていた。どこまでもマイペースなのが彼、書記の漆原高雅だ。 協調性がないのはどいつもこいつも似ている。会長を筆頭とした生徒会メンバーはいやに手のかかる奴らばかりであった。どうして自分がこんな損な役回りばかりなんだろうと考えるだけでため息が出てきた。 胃が痛くなってきたのでポケットから薬の入った瓶を取り出した。
「…あ、薬切れてる」
出てきたのは空っぽの瓶。今すぐ飲みたいのにこれでは無理だ。
(……今から自室に取りに行くよりも保健室にいって胃薬を貰った方が早いな)
要は頭の中で保健室までの最短コースを練りながら生徒会室を出た。会長みたいに不用意に歩きまわることだけは避けたかった。
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