「ああ漆原、昨日はプリンありがとう。今朝食べたよ」

「…」

高雅はただコクンと頷き要を見る。大体において喋らないうえに口を開いてもはい、いいえぐらいしか言わない。最後に声を聞いたのはいつだっただろうか、と要は思案した。

「そういえば漆原は仕事が終わってるのか」

要がそう言うと高雅は自分の机を指差した。完成された書類が高々と積み上がっている。

「…そうか」

仕事は有能だがいまいちコミュニケーションが取れないのが難点だ。何故だか成那は彼と意志疎通ができるようだが。そのことに面倒くささを感じて、またイライラが募るのだ。

「成那先輩は?」

そう聞くと首を振られる。知らない、ということだ。あの人はまたどこかにほっつき歩いて…、と頭を抱えた。
(ああ、また胃が…)
ぴっぴ、と高雅に制服を引っ張られ意識を現実に戻す。

「なんだ、漆原?」

すると漆原は一枚のメモ用紙を差し出して来た。

「何々…」



『要君へ(はぁーと)

日課にしていた昼寝ですが、先日ついに最適な場所を見つけました。なので僕は夢の国に行くために、準備があります。
あとのことは高雅君に一任してるのでよろしくね!高雅君と仲良くなれるよう頑張ってね。
あ、ちゃんと今日の仕事は終わらせてます。

追伸
猫ちゃんが可愛いです』




要は読み終わった瞬間にそれを破り捨てていた。主に「はぁーと」の時点で色々ときていたのだが、追伸まで読んで怒りのヴォルテージはマックスに達していた。しかも可愛いんだかよく分からない手書きの猫が添えられていて、それすらも要には怒りの対象だった。

「漆原、成那先輩の居場所を知っているか」

その問いにふるふると首を振る高雅。要は頭を抱えた。

「あんのクソ野郎、単位落として留年しやがれ」

とは言ったものの、成那が自分と同学年になるのも嫌だなと考え直した。さっさと卒業してくれた方が清々する。
そしてふと破り捨てたメモの方を見て思い出す。

「猫が可愛い、です……?」

追伸を読んでイラっとして破り捨ててしまったが、ひょっとしなくてもこれは重要な情報なのではないだろうか。成那の昼寝場所には猫がいるということと、予想しても良さそうだった。この場合、成那が適当に書いていれば意味を成さないのだが。

「漆原、…学園で猫がいる場所はどこか分かるか」

「……」

「分からない、か」

首を振る高雅に、こっちまでもが振ってやりたくなる気持ちで要は成那捜索に踏み出した。もちろん、今日の仕事が終了しているから捕まえたところで何をするでもないのだが。一言くらいは言ってやらないと気がすまないのだ。

「あれ、そういや会長もいないじゃないか」


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