目の前にいるのはいくつもの国を薙ぎ倒してきた歴然の戦士。…ではなくバルフェリア国王だった。まるでそんなような雰囲気を纏う国王に、俺は黙って頭を下げる。どうやら俺は珍しく緊張しているらしい。
謁見の間は荘厳さを主張し、王は威厳を放つ。横にいるイルリア様も普段よりは表情が固い。というよりかは、不機嫌なのか?眉を顰めている。
両脇に控える臣下達は意味有り気に俺を見ていた。ああ、こいつらが俺を囮にしたのか。

「よくぞ我が国に来てくれた、リンメイ殿。貴殿の来国を心から歓迎する」

「ご尊顔、拝謁でき至極光栄にございます」

視線は国王の顔のやや上を見る。どうにも目の合わせずらい御仁である。
婚姻を終えた俺は今日、正式に国王と謁見していた。謁見といっても二言三言話してさようなら、ぐらいの短さだ。しかし簡単だがその分失敗も許されない。

「うむ。不自由はないかリンメイ殿」

「いえ、毎日健やかに過ごしております」

「それは良かった」

当たり障りない会話、しかし俺の事を探ろうという視線も感じる。他国の人間だから警戒するのは分からなくもない。
初めて会う国王は、イルリア様とはあまり似ていなかった。どうやらイルリア様は母親似らしい。しかし親子なんだなあ、と思うところもある。…魔力の波長は親族で似るものだ。
……俺も自分の父とは髪色以外似てはいない。顔の造形はほぼ母に似ていると言ってもいいだろう。二番目の兄は父そっくりだが、将来父のような外見になるかと思うとなんだか面白いようにも感じる。

「これからは私のことを父だと思ってくれてかまわないぞ」

俺はその言葉にさらに頭を深く下げた。父親が沢山になってしまったな。

「…ありがたき幸せにございます」

国王陛下が義父か。すごい後ろ楯ができたものだ。まあそもそもが第三王子正室という地位なのだから十分すぎると言えば十分だが。特に自ら権力などをかざす予定もないので俺にとったら意味のないものなのかもしれない。

「これからも愚息を頼む」

「…」

イルリア様が身動いたのが気配で分かった。たしかに父親に愚息などと言われれば腹が立つかもしれないが、さすがに謁見の間で言い返すこともできまい。いや、頼むから問題など起こしてくれるなよ。俺は振り返れないもどかしさを感じながらイルリア様が穏便でいてくれることを願った。

「時にイルリア、お前はそろそろ軍を退役する予定はないのか」

「ありませんね」

イルリア様は間髪入れずに答えた。すごいな。イルリア様は頑なな表情で国王を見ていた。

「ならせめて白服のほうに」

「嫌です」

イルリア様にきっぱり言われ、国王もそれ以上は何も言わなかった。そこで引き下がるのか、いいのかそれで。臣下達は特に気にしているようにも見受けられないので、多分二人は会うたびにこういうやり取りをしているのだろうな。その風景が容易に思い付く。
……国王も本当に辞めてほしいなら権力行使で辞めさせればいいものを、案外優しいのだな。それとも意外にイルリア様には甘いのか?まあ、そうだとするなら本人は気付いてなさそうだがな。第三王子だとはいえ、ここまで自由にさせてもらっているのだから恵まれている。普通ならば国王の一声ですべてが動くのに、拒否権がちゃんとあるのだ。

「…それでは失礼いたします」

微妙な空気を断ち切るために俺はイルリア様共々退室することにした。親子喧嘩は俺を挟んで話さないでくれ。

「…困った事があれば私に言いなさい」

俺はそれにバルフェリア式の挨拶で答えた。バルフェリア国民になったのでベルゴール式の挨拶はさすがにもうできない。
周りの臣下達の顔を一瞥する。これからきっと長くお世話になるから、顔を覚えなくてはな。いざという時に思い出せるように。



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