現代パロディ。人外主。





思えば、彼女はいつもボーッとしてる事が多かったように思う。笑わない事はないが、無表情でいる事も多かったと思う。目鼻立ちが整っている可愛らしい外見で、無表情でいる彼女は、まるで人形のようだ。とクラスメイトが言っていた。あながち間違いではないそれに、僕はどう返していいかわからず苦笑いで返してしまうのだ。


「リン、帰ろうか」
「うん、45分後に雨が降るから早く帰ろう」


彼女が嫌いな物。それは水と熱。好きな物はあまり聞いた事ないけど、この前飲んでいたココアは気に入ったようだった。可愛さよりも利便性。それが彼女だ。まぁそれは仕方がないのかもしれない。最低限の喜怒哀楽すら最近ようやくわかってきた様なのだ。


「エミル、早くしないと私が濡れて錆びる」
「あ、うん。ごめんね、今行く」


リンという彼女は、僕の兄が趣味で造ったアンドロイドなのだ。その事を知ってるのは家族と兄の親友だけである。見た目は人間にしか見えないが、その言動はやっぱりロボットなんだなと思ってしまう事が多々ある。それは感情を司るココロがまだ理解出来ていないのだとか。機械とか電子系はあまり得意ではないので、それはどうすればいいのかなど僕にはわからない。でも、兄さんは普通の人間として接してあげてと言うので、僕も双子の弟も彼女をヒトとして接している。


「ねぇリン、今日は学校どうだった?」
「…別にこれと言って変わった事はなかった」
「そっか。僕も昨日と変わらず平和だったな」


帰りはいつもリンと二人の時が多い。ラタトスクは部活に入っているので、帰りはいつも遅い。いつもくたくたになって帰って来る。それに比べて、僕は部活には入らず、研究室から出てこない兄に代わり、家事をしている。リンも周囲に秘密がバレる可能性を考え部活には入ってはいない。

なので、いつも二人で近くのスーパーで買い物をしてから、帰るのがもう習慣づいている。しかし、今日は雨が降るとリンが言っていたからスーパーには寄らずに帰ろう。


「まだ冷蔵庫に食材入ってたよね?」
「今朝見た時には、夕食を作れる程度は残ってた。でもアステルが昼に使ったかもしれない」
「その時は僕が買いに行くよ。だから今日はスーパーには寄らずに帰ろう」


僕がそう言うと、彼女は少し間を開けてから頷くのだ。データを更新しているのだと言っていたが、機械音やらモーターの音などは一切聞こえない。まぁ、聞こえていたら厄介なのだけれど。


「リンは何食べたい?」
「私は別に食事をしなくてもいいから…。それに食事はムダに充電を消費するからいらない」
「でも、皆で食べた方が美味しいでしょ?」
「人数では味は変わらないよね」


そんなやり取りをなんだかんだで毎日していたりする。その日によって食べてくれる日とくれない日があるけど、多分食べてくれない日の方がやっぱり多い気がする。

ココロというのは難しく、それをコンピューターで作る事が出来るのか、それがアステル兄さんがリンを造り始めたきっかけだった。人間のココロは人格形成の鍵となる物。らしい。僕には難しくてよくわからなかったけど、彼女に一つだけ欲を与えたと言っていた。


「エミル、あれは何?」
「あ、あれは…選挙の車だよ」
「ふーん、うるさくね。近所迷惑だよ」


選挙カーを物珍し気に見つめ、眉を寄せるリン。兄さんが彼女に与えたただ一つの欲とは、知識欲という物だ。知りたいという欲求。それがあれば、いずれはヒトと変わらない存在になれるはず。そう兄さんは自信なさげに微笑んだのは、まだ記憶に新しい。


「あんなに大きな声で演説しても、結果なんて大して変わらないのに」
「それでも、一生懸命なのはいい事だよ」
「………そう」


リンはワケがわからないと言った表情をしていた。いくら時間がかかるかもわからないが、リンは必ずココロを手にする事が出来ると僕は思う。アステル兄さんが作った最高傑作で僕の大切な家族なのだから、そんなの当たり前だけどね。


「ほら、早く帰ろう。雨降ってきちゃうよ?」
「…うん、わかった」


手を差し出すと、ちゃんと握ってくれる。この温かい手が、ニセモノのはずがないのだから。









2013.07.23

こんな長編読みたい。
誰か続き書いてくれないかな←






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