誰かが言った事が、俺の頭の中に残りこびり付いたように離れない。彼女はもうすぐ死ぬらしい。病気で入院していた彼女だったが、その病気が悪化したらしいのだ。昨日会った時は、まだまだ元気であんなに楽しそうに笑っていたというのに。

世界なんて、そんなものなのだ。

一番欲しいと思ってる物は、手に入らないように出来てる。誰かの言った事は、どうやら当たっているらしい。君との未来は、もう手に入らないようだ。


『そんな陰気臭い顔をしてどうしたのです?』
「いいや、なんでもないんだよ」


なんでもないから、君は気にしないで笑っていればいい。俺にはどうにも出来ない事だったけど、そんな事は言い訳にしたくない。


『貴方が何を考えているのか分かりませんが、別に貴方のせいではありませんよ』


病院のベッドで窓の外を見ながら、何でもないような口ぶりで彼女は言った。そうだ、いつだって彼女は何でもないように重要な事を言う。まぁ、リンにしたら俺もそうらしいが。


『そうですね。今貴方が考えているのは、私の死の事でしょう?』
「君は本当に、変な子だよね」
『変な子とは失礼ですね。紛いなりにも貴方の彼女でしょう』


でも、出会った時から俺は君の事は変な子だと思っていたんだよ。不思議な雰囲気を持っていて、なのに人をまるで寄せ付けないような。変な子だな、って。


『貴方は、馬鹿な人だと印象を受けました』
「馬鹿なんて、酷いな」
『宇宙人だなんて、馬鹿ですよ』


そうだね、それは否定出来ないや。でもあの時は、真剣に宇宙人してたからなぁ。それに宇宙人してたからリンに会えたわけだしね。


『そうですね、ヒロトには言っておこうと思います』
「...うん」


何を言われるか、直感的に分かってしまった。色々捻じ曲がっていながらも優しい彼女の事だ。きっと後に続くのは、


『私が死ぬのはどうしようもない事なのです。だから、ヒロトは気に病む必要はありませんよ』
「リン.....」
『仕方ないので、私が死んだら忘れてくれて構いません。ですが、私を忘れるならば幸せになってくださいね』
「君は...いつも.....っ」


遺言に似た言葉を言った後、彼女はとても美しい顔で笑った。

それから幾らも経たない日に彼女は死んだ。本当に死んでいるのか分からない程綺麗な死顔だった。ただ冷たい彼女の体だけが彼女の死を告げていた。


「ああ、本当に死んでしまうなんて、リンは馬鹿だね」


ポロポロと俺の頬を濡らすのは、生温かい誰かの涙だった。その涙を掬うように風が吹いた。その風はまるで『何空を見ながら泣いているのです。空に涙を混ぜたら、光り出すとでもいうのですか?』と彼女が悪態を付きながら慰めてくれているようで、また涙が溢れた。

どうやら俺は、リンを忘れる事は出来ないようだ。










2013.03.25




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