君に捧げる愛妻弁当 | ナノ

君に捧げる愛妻弁当




「シズちゃんあーん♪」
「あ?いらねぇし」
「むーじゃあいいよ、新羅にあげるから」
「チッ…おら、よこせ」


強引に、シズちゃんは私の手からお弁当を引ったくる。苛々しながらおかずを口に運ぶ様子は、この屋上ではもう見慣れた光景だ。


「ねぇねぇ臨也」
「うん?」
「いい加減焦れったいから言うけどね、もう少し素直になったら?」


シズちゃんに聞こえないように耳打ちしてくる新羅。新羅は私がシズちゃんを好きなのを知っているから、時々アドバイスというかなんというか、色々な事を言ってくるのだ(アドバイス出来るほど自分はどうなんだって思うけど)。しかも最近はそれが頻繁になっているのだから耳が痛い。そして今日は素直になれって…そんな事言われたってどうしようもないんだけど。


「これでも私にしてはだいぶ素直なんだけど」
「うん、わかってる、それはわかってるんだけどさ、もう少し!!せめて僕を利用しないで欲しいなと思ってね?」
「だってしょうがないじゃん…」


シズちゃん素直に弁当渡しても受け取ってくれないのに、新羅かドタチンにあげると言った途端に食べるって言うんだもん。だから新羅とドタチンがいなきゃ、私はシズちゃんに弁当を渡せないのに。利用する以外にどうしろってのさ。


「うーん、そこなんだよね」
「何が?」
途端に、新羅は真剣な表情で腕を組んだ。


「なんだかんだ言って、結局静雄は臨也の弁当を食べてるでしょ?」
「まあ…」
「だから、臨也があと一押しでもすれば静雄は素直に弁当受け取ってくれると思うんだ」
「そんな単純なら苦労しないって」
「でもやってみる価値はあると思うよ?」
んな無茶な。第一どうやって一押ししろと言うのだ。


「実は明日、私も門田君もお昼は委員会の集まりがあるんだよね〜」
「え、ドタチンも?」
「うん、だからチャンスは明日の昼休み。せっかく静雄と二人っきりになれるんだから…ね?」


チャンスだよ、という新羅を無性に殴りたくなる。いやそれよりも、明日はシズちゃんと二人っきりだって?


「おい食ったぞ」
「え?あ、うん!!」


突き出された空っぽの弁当箱を受け取って、明日の事で頭がいっぱいな私は苦笑する事しか出来なかった。










***









そしてやってきた、翌日の昼休み。私は授業が終わった途端に弁当を抱え、教室を出て屋上に向かった。


「(あーやっぱりいない。せめてドタチンでもいてくれたらよかったのに…でも仕方ないよね。ていうか心の準備が…)」


屋上で一人で唸りながら思考を巡らす。すさまじい緊張感におわれて、身体が震えた。


「(てか結局問題なのは食べてくれるかどうかって事なんだよね)」


とりあえず深呼吸でもすれば気が紛れるだろうと思い、大きく息を吸って空を見上げた。


――そんなこんなで待つこと30分。結局屋上にシズちゃんが現れる事はなかった。










***









屋上からの階段を降りていると、ちょうど目の前に新羅の姿があった。どうやら屋上に向かうようだったらしいが、私の姿を見ると目を見開いた。


「臨也、静雄が…!!」
「あー…うん、やっぱり来なかったよ」


期待した分虚しさはそれ以上で。新羅に馬鹿野郎とでも言ってやろうとも思ったが、新羅の様子が変だったのでやめた。


「そうじゃなくって、静雄が怪我して今保険室にいるんだって!!」
「え?」


シズちゃんが保険室?あのシズちゃんが?


「臨也!!」
「…新羅、午後の授業サボるね」


そう新羅に呟いて、気付いたら走り出していた。










***









「失礼しまーす…」


保険室に着くと、誰もいなかった。…と思ったら、ベッドのある一ヶ所だけにカーテンが仕切られている。ゆっくりと近付いて、そっとカーテンを捲った。


「シズちゃん…?」


ベッドに横になりとじていた瞼を開く目の前の人物は、私の姿を確認すると眉根に皺を寄せる。


「臨也…」


私の名前を呼ぶと大きなため息を吐いて、シズちゃんは再び目を瞑った。


「…何の用だよ」
「…別に」


そばにあった椅子に腰をおろすと、すぐに本鈴が鳴り響く。それに気にもとめずに黙っていると、ぐー、という情けない音がした。


「…シズちゃん」
「あ゙?」
「お弁当…食べる?」


持っていた弁当を差し出すと、シズちゃんはそれをジッと見つめてから、


「手ぇ使えねぇから食わせろ」


と呟いた。それを聞いてシズちゃんの手に視線を移すと、両手にはぐるぐると巻いた包帯。


「…シズちゃんともあろう者がこんな怪我するなんて、一体どうしたのさ」
「…ちょっとガラスの破片で切った」
「え、これちょっとっていうレベル?」
「包帯が大袈裟すぎんだよ。いいからさっさとそれ食わせろ、腹減った」


シズちゃんに促されて、弁当のご飯を箸でつまむ。


「…あーん?」


それをシズちゃんの口元に近付けたら、シズちゃんは何の躊躇いもなしにパクリと食べた。


「(うわぁ…っ)」


思った以上に恥ずかしくて、心臓が高鳴る。硬直していると、シズちゃんは怪訝そうに顔を歪めた。


「玉子焼き」
「え?あ、うん…っ」


我に返って今度は玉子焼きをつまんでシズちゃんの口元へ。再びそれをパクリと食べると、シズちゃんはふと口を開いた。


「…俺さ、」
「え?」
「お前の玉子焼き…結構好きなんだよな」


ぽつりと呟いた言葉は予想外の言葉で。暫し瞬きしているとシズちゃんに、おい、と呼ばれる。


「え、何…?」
「あ゙?だから、好きだっつってんだよ」


…あれ、言葉が足りなくないですかシズちゃん。


「…玉子焼き?」


言い間違いだよね〜なんて思ってぎこちない笑みを浮かべて訊いた。シズちゃんはきっと玉子焼きが好きなんだ、きっとそうだ、って、


「…………お前」


思ってたのに。頬をちょっと赤らめて、顔を背けて。…こんな反応、見たことないんだけど。


「…なっ、手前何泣いてんだよ!!?」
「ふぇ、泣いてないしばかぁっ!!」
弁当を膝に置いて、箸を持ったまま右腕で涙を拭う。だけどとめどなく溢れてくる涙は止まらなくて、それどころか溢れ出てくるばかり。どうしよう、なんて思っていると、ふと膝上の弁当が無くなって。代わりにシズちゃんの、包帯だらけの腕に抱き締められた。


「…泣くな」


そう言ってシズちゃんはぽんぽんと私の背中を優しく叩いた…つもりなんだろうけど、若干痛い。


「…っいた、いよ、シズちゃん」
「あ、悪ぃ」


途端に叩く腕は止まって、ブチッ、と包帯の千切れる音がする。今度は、シズちゃんの手の平が私の背中を撫でた。


「…優しいシズちゃんとか、気持ち悪い」
「あ?殴るぞ手前」
「うん、でも、そんなシズちゃんも、好き」


そう言ってそれから、シズちゃんの胸元に顔を埋める。涙はいつの間にか止まっていた。


「…これからもずっと、弁当作れよな」
「…ずっと?」
「おう、愛妻弁当?ってやつ」
「愛妻弁当って…」


意味違うよ、そう言って笑ったら、違わねぇって。


「それでいいんだ、そのうちすっから」


するっていうのは、所謂そういう事で。ぎゅ、とシズちゃんの服の裾を掴む。


「…嘘だったら弁当に針入れるからね」


笑いながらそう言って顔を上げると、上等、と返ってきて。 それから私は、シズちゃんとキスをした。







――――――――――
朔夜様のみお持ち帰り可能です!!

長らくお待たせしてしまい申し訳ありません…orz
来神でお弁当を作る臨也…どうでしょうか(爆)

リクありがとうございました!!