「憎さ、独占」の続きです。
先にそちらを読まれたほうが良いと思われます。






『君を、独占』



「ころさないの?」

涙で濡れる瞳で呟いた彼は、そのすぐあとほとんど気を失うようにして眠りについた。
砂月はその小さな身体に自分がつけた傷をゆっくり撫でて、罪悪感を引きずり出す。
そうでもしないと、人格としての何かが壊れそうで、怖くて、無理やり胸の痛む方へ行動した。
どうにか翔が目覚める前に那月に戻りたかったが、那月のためを思うと、それも無理なような気がして、どうしようもなくてシーツを握りしめる。
ぱっと気が付いた翔の頬についた涙の筋を拭ってやると、色素の薄い頬は思った以上に冷たくて、思わず心配になって薄い胸に耳を押し当てた。
どくどくと血を送り出す音が、いつにもまして弱々しく聞こえるのは気のせいだろうか。

「は…死ねばよかったのは、俺の方だったな…」

自嘲気味に呟いて、血と涙でぐしゃぐしゃになったシーツを握りしめる。
こんなに彼の身体に、心に、深い傷をつけて、それでも許してもらいたいなんて、またあの笑顔を見せて欲しいなんてどうかしてる。
それでも幸せを願うなんて、どうかしてる。

「…さ、つき…?」

ふいに翔の声が耳に入った。
気が付くと先ほどまで閉じられていた瞳は、今ははっきりと砂月の姿を映している。
心臓が止まってしまうかと思った。

薄く開かれた目には、恐怖が色濃く映っている。
ずるずると、また罪悪感が引きずり出された。

「悪い…ことをした…」

「……」

「許してくれ…」

ほぼ無意識のうちに口をついて出た言葉はあまりに勝手で、受け入れてくれはしないことを前提として頭を下げた。
許されないことをしたのはわかってる。簡単に謝れることじゃないのもわかってる。
でも、それでも自分を怖い存在だと思ってほしくなかった。けして翔を嫌いなわけではないとわかってほしかった。
むしろ、愛しているのだと。

「なんでもする。頼むから…」

「…砂月は…悪く、ねえよ…」

「は…」

「砂月は、那月の闇だから…きっと、辛いこと…たくさん背負ってる…。だから…」

だから、ともう一度呟くように言って、小さな手が砂月の髪の毛に触れた。
さらり、ゆっくりぎこちない手付きで撫でられる。

「…辛くなったら、またこうしていいから…それで砂月が、大丈夫なら…おれはいいから…」

薄く微笑んで、翔が砂月の頬に優しく触れた。
なにがいいんだ。なんで、笑うんだ。
分からなかった。
分からなかったけれど、ただ涙が止まらなかった。

「すまない…愛してる、愛してるんだ…」

翔は驚いた顔は見せなかった。
ただ、一粒涙を溢して、笑った。

「うん…」

溢れる涙と感情のまま抱き締める。
遠慮がちに腰にまわる手の温もりで、凍えた心がゆるりと溶けた気がした。



『君を、独占』



なんだかんだでさっちゃんは翔ちゃんが好き

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