『ミクロコスモス』
一体なんだってんだ。
どいつもこいつも、気を付けてね、心配なんだから、って。
どう見たって自分は男だし、男を好きになる男なんているわけないし(那月は別として)。
みんながあんなに騒ぐ意味が全くわからない。
「翔ー!」
突然廊下で名前を呼ばれて振り向くと、そこには満面の笑みのクラスメートがいた。
ほんとに嬉しそうに笑ってるから、こちらも笑顔で返す。
いつものように、走ってきた勢いのままぎゅっと抱き締められて、少しよろけた。
「翔さ、このあと暇?」
「特に予定はないけど…」
「じゃあ俺の部屋来ない?」
目をキラキラさせて身を乗り出して手をつかまれる。
そんなに大事な用があるのかと気になって、二つ返事で了承した。
するとさらにキラキラ瞳が光って、なんだかいいことをしてあげた気分。
「約束だから!絶対来いよ!」
「うん」
嬉しそうに手を振って戻っていく彼に手を振り返しながら、翔はぼんやり考えた。
もしかして、音也の言う危険とかは、ああいう奴のことなんだろうか。
いやでもそしたら那月なんて危険すぎて猛獣扱いではないか。
うんうんとひとりでうなずいて、部屋へ戻った。
「あ、翔ちゃんお帰りなさーい」
噂をすればドアを開けたとたんに猛獣、もとい那月が飛び付いてくる。
うげえ、と変な声が出た。
「どうします?翔ちゃん先お風呂入りますか?」
「いや、あの…」
これからクラスメートの部屋へ行くのだということを伝えると、那月の顔付きが一変した。
どうして?なにしに?いつ帰ってくるの?
質問攻めにされたが、全部分からないと答えた。
そういえば何も聞いていなかったと今更ながら気がつく。
「翔ちゃん、ほんとに…気を付けてくださいね」
「な、わ…わかったよ…」
僕も行きます、とか言い始めるのかと思ったら両手を力いっぱい握りしめられて「ほんとに」ともう一度念を押された。
なんだかいつもと違う那月の態度に拍子抜けしつつも、翔は部屋を出る。
なにも悪いことなどしていないのに、罪悪感で胸がいっぱいになった。
「大丈夫、だよ…」
自分に確認するように呟いて、翔は長い廊下を歩き出した。
『ミクロコスモス』
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なんかほんわか系を書きたかったのにどんどん危ない方向に…!
しかもまだ続くっていう←
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