甘すぎてもだめ、たまには涙だって欲しい
『砂糖とミルクとそれからソルト?』
「死ね」
この世の中に、この一言だけというひどい電話をしてくる奴がいるだろうか。
御幸は訳もわからないまま、切られた電話を見つめていた。
電話の相手は白河。突然の電話だった。もしかしたら、アドレスを交換してから、初めてかかってきた電話かもしれない。
「どういうことだ…」
心当たりは、まあたくさんあった。白河は御幸のことが嫌いだし、鳴のことをこの上なく崇めているようだったから。
でもそれだからといって突然「死ね」なんて言われる理由は持ち合わせていないはずだ、多分。
頭をかかえてうーんと悩んでいたら、またケータイが鳴った。
ディスプレイには白河ではなくて彼と同じチームメイトの「カルロス」の文字。
「もしもし?」
「おー御幸、元気?」
先ほどの彼とは違って、軽い挨拶が入ったことに少し安心して、御幸は胸を撫で下ろす。
これでカルロスまで暴言を吐いてきたら泣いてやろうかと思った。
「白河にすごい傷付くこといわれたんだけど」
「あー…悪い」
カルロスは御幸の傷付いた心を、あははと笑い飛ばした。
「いや、鳴がさあ、昨日から泣いて泣いてしょーがないんだわ」
「え、な…なんで!」
お前知らないの?と驚いた声で聞かれて、驚いたのはこっちだよ!と怒鳴った。
カルロスによると、鳴は昨日の夜に急にカルロスの部屋に来て大泣きしだしたらしい。
それはもう水溜まりでもできるのではないかというくらいの勢いで。
理由を聞いても「一也」しか言わないという。
それで白河のあのどぎつい一言という訳だ。
「それはなんというか…すみません、うちの子が…」
「いやいつものことだからいーんだけどさ、なんか知らないのかなーって…でもそのぶんだとなんも知らなそうだな」
「…わ、悪い」
いいよ、とカルロスが笑って言った。
こういうとき、この男は気遣いができてほんとにいいやつだと御幸は思う。
すぐ脱ぐからやだよ、なんて鳴は言っていたけど。
「ま、そういうことだからさ、メールでも電話でもしてやれよ。あ、白河のことは気にしないでくれな」
「行く」
「は?」
受話器越しにカルロスが間の抜けた声を出した。
「今から行くから、稲実に」
「えっ、まっ…御幸!?みゆ」
聞いてなんていられなかった。ケータイを放り出して、ジャージのままコートを羽織る。
部屋を出たとき誰かにぶつかった気がしたけど、振り返る時間も惜しくて、そのまま走った。
ただ、走った。
「鳴…鳴…!」
なんで走っているのかわからない。
明日だって朝から練習がある。
でも、しっかり目を見て言ってあげたかった。
触れて、体温を感じて、どうしても言いたかった。
「鳴、泣かないで…」
時刻はもう9時を回っていた。
それでもいい、なんだっていい。
君のために、走るよ。
『砂糖とミルクとそれからソルト?』
御鳴ちょっと続きもの(^ω^)
やっぱり鳴ちゃんかわいくてだいすきですーとか言いつつ鳴ちゃん出てきてないっていう←