世界がひっくり返っても
変わらないものだって
確かにあるはずさ
『青いそらと君のえがお』
街角で鳴に会ったのは、偶然といえば偶然だったのかもしれない。
だけどカルロスはなんとなく分かっていた気もする。
今日は鳴に会う日なのだと。
「まっさかさあ、カルロスに会うなんて思ってもなかったよ。いつぶりかな?」
「そうだなぁ…もう半年ぶりくらいじゃねーの?」
鳴は大きい氷の入ったアイスコーヒーをかき混ぜながら、相変わらず可愛らしい笑顔で、へへ、と笑った。
鳴の顔は高校入学当初から変わっていない、とカルロスは思う。
色白で、目がくりくりしていて、女の子受けしそうな、そんな顔。
そんなことを言うと怒られるだろうから、絶対に言わないけれど。
「お前は相変わらず御幸と暮らしてんの?」
「うん。家に帰ったらおいしいご飯とおかえりのちゅーが待ってるんだよ」
「それは羨ましいかぎりですね」
「へへへー」
鳴が誇らしげな顔をする。
これも、変わっていない。
鳴は高校時代からずっと御幸にぞっこんだった。
もちろん御幸も負けないくらいの鳴バカだったけれど。
そういえば、御幸が女の子に告白された事を知って、食堂のど真ん中で泣きながら電話していたのを覚えている。
多分今でもそうだろうけれど、鳴は独占欲が異常なまでに強かった。
前に一度だけ御幸に、辛くないのか、と聞いてみた。
そうしたら、そんなこと微塵も思ったことがない、とさらりと言われてしまった。
つまりは二人とも愛し合いすぎているのだ。
バカップルというやつだ。
「また飲み会しようよ、ね。白河とかも呼んでさ。」
鳴がガムシロの空の容器を手で弄んで、楽しそうに言った。
そうだな、と笑顔を返す。
鳴はいつの間にかコーヒーが飲めるようになった。
昔はあれだけ苦いから嫌いだと騒いでいたのに。
身長も少し、ほんとに少しだけ伸びた気がする。
さっき変わってないと思った顔だって、横顔がちょっと大人っぽくなっていたりして。
いろいろ、変わったんだ。
それぞれを取り巻く環境とか、空気とか、考え方や価値観だってそうかもしれない。
ぜんぶ、あっちもこっちも、あれもこれも。
「ねー、カルロスは彼女つくんないの?」
よく見ればイケメンなのにね、そう言って鳴はけらけらと笑った。
懐かしい笑い声。
一瞬だけ、あの幸せすぎた高校時代に戻った気がした。
思い出が鮮明に蘇って、なんだか胸が苦しくなる。
「鳴」
すごく久しぶりに、彼の名前を呼んだ。
ストローをくわえたまま、ぱっちりと大きな瞳がカルロスを見上げる。
名前を呼んだくせに、なんにも言おうとしないカルロスに、鳴は首をかしげた。
自分でも、何かを言おうとして口を開いたわけなのだけれど、その口からは言葉は発せられることはなかった。
だって、目を疑うほどの青が、鳴のすぐ後ろに広がっていたから。
ああ、わかった。
空が青い。
清々しいほどの青が、カルロスの視界いっぱいに広がっている。
鳴にはよく青空が似合う。
というか、青空の日しか奴は良い顔をしないのだ。
雨は寒いし、夏だったらむしむしするし、大嫌いだと昔言っていた。
でも確かに、晴れの日の小さなエースは、明るい太陽に照らされて、少しだけいつもより輝いているように見えた。
今日は、鳴の日だ。
ご機嫌の鳴に会える日。
「変わんないな」
一言、そう言うと鳴はまた静かに笑った。
世界がひっくり返ったように、たくさんのことが急激に変化した。
それぞれを取り巻く環境、空気、考え方や価値観も。
でも、変わらないものだってあるのだろう。
例えばそう、この空の青さとか。
大人っぽいなんて、少しも思えないような鳴の笑顔とか。
この心の中にずっとある、淡い色の想いとか。
(それを愛などと言うつもりはないけれど)
『青いそらと君のえがお』
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カルロスからの鳴への感情は、親的な愛だと良い。
いや、親的な愛と自分では思ってるけど実は恋しちゃってるともっと良い。←
無自覚恋愛すてき(^ω^)