これって愛?それとも罰?



『ブルーキャンディ』



誰もいない保健室。
真っ白なシーツに薄い身体をうずめて深い呼吸を繰り返す彼は、まるで消えてゆく雪のように儚くて。
窓の外の青い空を見て、なんて季節外れなんだって思った。

「どう?落ち着いた?」

「ん…もー大丈夫…」

淡い金髪をふわふわ撫でてやると、少し高めの体温を感じる。
口では大丈夫とは言うものの、もとより透き通るような白い肌は真っ青だ。

学園長の唐突な提案で、クラス対抗の球技大会が行われたのはつい一時間ほど前のこと。
いつどんな状況でも無茶ぶりをしてくるシャイニングにはもうそろそろ慣れたけれど、さすがにこの炎天下でドッヂボールと聞いたときは顔が引きつった。
いくら勝負好きな翔もそれは同じなようで、暑さに弱い彼は心の底から嫌そうな顔をしていた。

それもそのはずで、立っているだけで汗が滴るあの状況で、夏風邪にやられて病み上がりだった翔は案の定試合開始後20分ほどでダウンしてしまった。
翔だけじゃなくて、他にも何人かが熱中症の症状を訴えたため球技大会は中止。
その時点で僅かな差でリードしていたSクラスの優勝となった。

「んー…脱水症状もありそうだね、はいこれ飲んで」

「さんきゅ…」

スポーツドリンクの入ったペットボトルを手渡して、頬に当てた手で熱を測る。
先ほどまで青白かった翔の顔は、熱を帯びて頬が赤く染まっていた。

「38度弱ってとこかな、大人しく寝てればきっとすぐ下がるよ」

「おー」

悪いな、小さくそう呟いて翔が手で目元を隠した。
らしくもなく赤い唇からため息がこぼれ落ちる。
重く、苦しそうな空気の塊。

翔は誰にも知られずに内に溜め込むことが多かった。
いつも強がって、平気なふりをして、でもちょっと疲れると脆く崩れてしまう。
たくさんのものを背負うには、この身体は少し小さすぎるから。

「最近仕事はどう?楽しい?」

「…んー」

「まあ楽しいわけないか、なんてったって女装だもんね」

「まあな…でも、勉強になることばっかだよ」

青白い顔で微笑んでみせる翔に、ああまたか、と胸が苦しくなる。
また彼は、一人で笑おうとするのか。

「ま、もし困ったことがあったらおにーさんに頼ってくれればいいよ」

そう言って翔の頭をぐしゃぐしゃに撫で回した。
一人で背負わないで、って願いを込めて。

「……」

いつもは、子ども扱いすんな!とか叫ぶのに、具合が悪いからなのか彼は一点を見つめたまま動かない。
上の空という感じで、ただ大人しく撫でられているだけだ。

「翔?」

顔を覗き込むと、翔の瞳が揺れた。
真っ赤なくちびるが、薄く開く。

「…す…」

「え?」

「…キスされた…カメラマンに…」

目線をそらして、今にも泣き出しそうな瞳がゆっくり閉じて、開いた。
その動作ひとつひとつが、スローモーションのように永く感じる。
思わず息を飲んだ。

「はは、『唯ちゃんかわいい』だってさ」

無理やり作った笑みを張り付けて、翔が枕に顔を埋める。

無意識だったと言えば言い訳になるかもしれない。
我慢が、できなかった。
気が付いたらスカイブルーのガラス玉みたいな瞳が目の前にあった。

「…レ、」

名前を呼ぼうとした翔の声が途切れる。

最初は触れるだけだった。
でも、涙の膜でつつまれた瞳を見たとき、止まらなくなって、止められなくなって、一瞬意識が飛んだ。

誰もいない保健室に、吐息だけが響き渡る。
ぎしり、と乗り出した身でベッドのスプリングが鳴った。

「ふ…レ、ン…っ」

どん、と押し返されてはっと我に返る。
浅い呼吸を繰り返す翔を見て、やっと自分のしたことを冷静に考えられるようになった。

翔にキスをした。
ただ、カメラマンのキスを消せればいいと思っての行動だったのに、気が付いたら歯止めが聞かなくなっていた。
翔は少しだけ涙の滲んだ目をぱちくりさせて、レンを見つめている。

自分らしくないと思った。
年下のクラスメートに、本気になるなんて。
ただかわいい弟ぐらいに思っていた子に、こんなことをしてしまうなんて。

でも、もう引き返すことなどできなかった。

「忘れなよ、そんなこと」

「…レン」

「そんな奴よりもっと、よくしてあげるから」

さら、と短い金髪を梳くと、びくりと肩が揺れる。
熱のせいか、はたまた違う理由か、顔はさっきよりもずっと赤い。

「翔、おいで」

答えは簡単だった。
差し出した手に恐る恐る重ねられた小さな手だけで、あとはもう。

淡い色のカーテンが風で膨らむ。
微かに聞こえてくるピアノの音。
初めて恋に落ちた夏の日の夕方。


神様、これはいけないことですか。



『ブルーキャンディ』



ずっと書きたかったレン翔!!
大好きなのに一回も書いたことなかったので!
本気の恋なんてしたことなかったレンさまが純粋な翔ちゃんに惹かれていってでもそれを気づかないふりしてたんだけどもう我慢できなくなって一気に攻めちゃうって感じがいいです!!!!←
とりあえず何が言いたいかというと、レン翔最高。

ちなみにこのお話の裏設定では那翔前提なんです、実は。



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