Arrest1





私は今、突っ立っている。


呆然としながら。




どこにって?

朝日学園の掲示板の前にです。




掲示してあるのは、文字が少しだけ書かれている、1枚の紙。




『以下の者を新生徒会長に任命する』

小さな声で、読み上げる。

学祭で、最後だったんだ、会長。



『――……2年A組、御門壮介』



そう、呆然としていた理由はここ。


御門くん?why?



次の生徒会長は1年だけど雪村くんかと思ってた。

生徒会関係ないじゃん御門くん。




教室に走って『おはよう』と言う。


視線の先にはあの3人組。




「ひよこおーっす」

『御門くん生徒会長なの!?』

「えーそれがどうしたの?」



きょとんと、当たり前のような表情を向けられましても!


『なんで?』


なんかさ、誰でもいいとかは思うけど!
身近な人がなると「なんで」ってなるんだよね。

「卓哉先輩中学の時の部活の先輩なんだよね仲良いんだよね。それで」



卓哉先輩推薦か。

……なるほど?




納得いかないような私の顔を見て御門くんが笑う。



「これからも生徒会、よろしくね?」

『はっ?』

「生徒会ってぇ、3年生以外は継続だよ?知らなかったの?」



うーわー面倒くさい。



妃代ちゃん副会長ね、だなんて宣言されて……まじですか。

なにそれ、2番目にえらいじゃん。
仕事多いじゃん、それはとても面倒くさいデス。



雪村くんは?書記のまま?


春になったら新1年生も入るのか。
……もう、進級かぁ。



っていっても、冬になったばかりだけれど。

あっという間だよね、時間って。



岩倉先生が「ホームルーム始めるぞ」だなんて大声で言いながら教室に入ってくる。

それに反応してみんなが自分の席に座る。



いつも通り淡々と授業をこなしていく。

間違えた、寝てる授業もあった。こなしてすらいなかった。
だから勉強できないんだとか言わないでください。




今日もあっという間に1日が終わる。



帰ったら何しようかなー、ゲームでもしようかなー。


みんな元気だなー騒いで。

私は帰ったらゆっくりと休みますよっと。いや、授業寝てたけど。




鞄を手に持った瞬間、腕を掴まれた感触が伝わる。

少し細めの指。ん?誰だ?




振り返るとほぼ同時に、ガシャンと音が腕から聞こえた。



私の腕を掴んでいるのは、笑顔の御門くん。

……手首には、得体のしれないものがついている。

得体のしれないものっていうか……



『……手錠?』



銀色の、おもちゃのような手錠。


意外と頑丈なようで、反対の手でいじってみたが取れない。




「おもしろいから買ってきた!」

「売ってるのか、こういうの」



待って待って待って。
なにこれ?


引っ張ってもびくともしない、というか。
もう片方に別の人が繋がってるというか。



「……おい」



手錠で一緒に繋がれているのは、蓮で。



何ともいえないような表情で蓮が御門くんとその隣にいる陽くんを睨み付けている。



私が繋がれているのは左手。
蓮が繋がれているのは右手。

蓮が右手を引っ張れば、私の左手が引っ張られる。


無意識だったようで、よろけた私に「あ、悪ぃ」とバツの悪そうな表情を見せた。



「愛しの妃代ちゃんとひとつになった感想はっ!?」
「壮介、それは誤解を招く言い方だ」

「お前らふざけてんじゃねーよはずせ。俺これからバイトあんだよ、お前らの遊びに付き合ってる暇はねぇ」


そうそう、私も遊ぶために忙しいからはずしてくださいな。


バイト遅れたら可哀想だし?



御門くんが不満そうに鞄に手をかけた。



「蓮、お前、ノリが悪いな」
「陽、お前殴るぞ」


暴力反対。


御門くんの表情が不満げから焦りに変わる。





「……ごめん。本当にごめん」



なんか、苦笑いでこちらを見ている。

……嫌な予感しかしない。




「手錠の鍵、家に忘れてきたみたい」




……本当に御門くん、喧嘩売ってるの?

これ鍵式か。どおりで外れないわけだ。




「……すぐ取ってこい、今すぐに!」




蓮が大声で叫ぶ。

クラスメートが驚いたように私たちを見る。
ちょ、近いからやめてください耳痛い。



陽くんがため息をついて蓮を見た。

ため息つきたいのは私たちです!




「なんだ、嫁と手錠で繋がれているのが嫌なのか?」

「そういう問題じゃねぇだろ!ひよこにも迷惑かかってんだよ!」



嫁じゃないって言ってるでしょうが。
蓮もそこナチュラルにスルーしない。


御門くんがこっちを見て、再び苦笑い。




「……明日じゃ駄目?」

「あ?」


明日じゃ家に帰れません。



「今日これから大ッッッ好きなアーティストのコンサートあるんだよね……ようやくチケット手に入れて、家帰ったら間に合わないっていうか……」



……その手に持っている大荷物は、ライブのための私服ですか?



御門くんが手を合わせて頭を下げてくる。



「本当!お願い!明日まで待って!俺本当コンサート行きたい!」



いやいやいやいや。
待てないから!



「ふざけんな!」

『寮に帰れないじゃん!』




陽くんがわざとらしく、何かを思いついたかのようにぽんと手を叩いた。


「桃瀬、蓮の家に行けばいいだろ」




『は?』




何故そうなるの?



ぽかんとする私と蓮を見て御門くんが背中を押してくる。





「そうだね!寮だったらいろいろ面倒くさそうだし!蓮ちゃんの家行きなよ!会長来る前に早く!さぁ行け!バイバイまた明日!!」






教室から追い出されました。

会長はあなたになるんでしょう御門くん。




廊下で2人、突っ立っている。

……2人の間には、銀色に光る手錠。



「……白鳥に見つかったら確かに面倒だな」

『そう、だね』




会長に見つかったら面倒なことになりそうなのは確か。


とりあえず外に出るか、ということで学校の玄関を出た。





寮、には帰れないよなー……





「……俺ん家行くか?」

『……申し訳ないけど』


青峰家に迷惑かけちゃうよね。

でも仕方がないよね。


千絵ちゃんと俊太くんに会えるよやったね。




『お邪魔してもいい?』

「おう。意地でもはずす、これ壊してでもはずす」




蓮が右手を振れば短めのチェーンが揺れ、太陽の光が反射して光る。



道を歩いてるとすれ違う人に時々変な目で見られた。


……手錠を。




 

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