妃代ちゃんと○○くん1





『……まったく!』

いきなり転校させられて、いきなり“婚約者”だなんて。
意味がわからない。


『あ……寮の行き方くらい聞いとけばよかったーっ!』



婚約者とやらを断ったところで、ここに通わざるを得ないことは変わりないのに。

だって高校中退は嫌だ。前の通っていた学校に行ったところで同じことの繰り返しになることは目に見えている。


少し先の場所で男2人がたむろをしているのを発見した。
……あの人たちに聞いてみようかな。他には人もいないし。


『あのー』
「あぁ?……女?」


ハァイ女です。

ていうか、うわ、ガラ悪そう!チャラそう!
聞く人間違ったかも!

失礼な上に今更か。



『りょ、寮に行くのってどうしたら……』

「何?寮?彼氏のところにでも行こうとして学校に迷ったとか?」


違うけど。



「連れてってあげるよー、何号室?」
『えーっと……306です』



お父さんに渡された紙に書いてあった番号を読み上げた。

連れてってくれるって、いい人だ、よかった。
金髪さんに手を掴まれた。

……迷子にならないから放してほしい。



ズカズカと早足で進んでいって、連れて行かれたのは……人気のない廊下の隅っこ。

あれあれー?おかしいな。

私は寮に連れてってって行ったんだけど。


前にいる男の顔を見ると下品にニヤニヤとしていた。……騙された。


というか、私って無防備すぎ?
結構ピンチじゃない?
ピンチになるの早くない?



『最低!!』

大声で叫ぶと口を押さえられる。



「大人しくしてろよ」

『……っ!』



さっき手を掴んだ金髪さんの手がスルリと太ももを這う。



誰か……助けてっ!



心の中で叫んだ声は耳には届かない。


と、思っていた。



「……おい!何をしている!」

「げっ」



諦めかけた時に耳に届いた凛とした声と
やべぇ、とでも言いたげな金髪さんと不良っぽい人の声。



「3Bの関屋と谷口だな?そんなところで何をしている?」

「……会長には関係ないって」



2人が背中に隠そうとした時。

“会長”と呼ばれた人と目が合った。



会長って、生徒会長?

彼の短くも長くもない黒髪が綺麗に揺れる。



「……なぁに女を連れ込んでるんだ?」

呆れたような会長さんの声に、2人はびくりと体を揺らした。



こんな不良さんたちが怯えるなんて……会長さんって怖いの?


助かった……と思った瞬間、



「女連れ込むなら自分の寮の部屋とか、家とかにしろ。学校に連れ込まないでくれ」


……あれれ?



どちらかの彼女って勘違いされてる様子?
違うと否定したいのに口は塞がれたままだ。



「そうだな、悪いな会長!じゃあっ」



不良さんに手を引っ張られて連れて行かれる。


……助けてよ。
助けて!!


会長さんと再び目が合った。


そして
その瞬間

不良さんたちの反対側へと引っ張られた。


「……」

「何、会長」



私の左手に、暖かい感触。
動かなくなった体。

……え?
会長さん?



「泣いてるだろ」


強く左側に引っ張られた。
……あ、口から手がズレてる。

声、出せる。



「本当に、どっちかの女か?」



それは会長さんが勝手に勘違いしたんだけどね!



『違います!』



できるだけ大きな声を出して叫んだ。


その瞬間、不良さんが吹っ飛んだ。
右手が開放される。



「おい関屋。保健室に谷口を連れてってやれ」

「は……はいっ」


ビクついた金髪さん(こっちが関谷さんだったらしい)は不良さん(こっちが谷口さん)を抱えて慌てて去っていった。



『ありがとう、ございます』

「あーっと……どうした?迷い込んだのか?こんなところに」



呆れたような会長さんが笑いかけてくれる。
優しげな笑みで、何だか安心する。



『えーっと……ここに転校してくることになったんです』



は?っていわれるかな。
男子校だぞ、って。



会長さんは少し驚いた顔をしたあとに
「なるほど」
と言った。


「お前が桃瀬妃代か」



え?なんで知ってるのこの人。
さっきの2人からして学校に知らされてない感じだったのに……

生徒会長だから?



「じゃあ、あの話聞いてるな?」

『あの、話?』



けほんとひとつ咳払い。
感じのいい笑顔を私に向けて口を開いた。



「初めましてお姫様。私は生徒会長の白鳥大和【しらとり やまと】。まぁ、好きなようにお呼びください」

『じゃあ会長で』



そういうとなぜか苦笑された。



ていうか

お、お姫様って
よくこの人恥ずかしげもなくそんなことをさらりと言うなぁ。

一人称私なの?



ニッと会長さんは笑って私を見た。



「あなたの婚約者でございます……ってな」

『……は?』





この人が



『婚約者……?』

「あぁ。俺が婚約者」



あ、一人称俺になった。
やっぱり口調はふざけてたんだ。


まぁ、いいのかもしれない。

少なくともさっきの不良たちが婚約者って言われるより全然いい。

助けてくれた、し。



あー、でも

『婚約者とかいう話、私さっき晴信さんに断ってきたばかりなんで……すみませんけど』
「は?それってどーいう……」


会長の言葉を遮るように、窓の外側から大きな音が響いた。

会長が窓に近づいて外を見る。



「おい!何やってんだ!」



誰かがいたらしい外に向かって叫んだ。



「お前らそこで待ってろよ!?」



廊下を走り出した。
私の手を引っ張りながら。



『なんで私まで!』

「また誰かに襲われたいなら置いていくけどな」



放す気がなさそうな手を見ながら『わかりました』と告げる。



あんな目に合うのはもうごめんだ。

面倒くさいし、なんだかんだ怖いのだ。




玄関を出て、さっきの窓から見える場所についた。

中庭だろうか?
庭まであるの?
この学校広いねぇ。



校内5階まであるし。あとで探検しようっと。

何があったんだろう……喧嘩かな?



会長を見つけた途端「会長!」と叫んでやられていた方がこちら側に逃げ走ってきた。

会長は庇うようにその人の前に立つ。



「どけ会長」


そういって会長に近づいた人……背ぇ高っ!

切れ目に少し睨まれた気がしてゾクリと身震いをした。



 

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