BAD APPLE4





「妃代ちゃんが、悪いんじゃない」


さっきから、何度も繰り返している言葉。




『……私が何をしたっていうの』



あやめさんに反抗するように、言葉を紡ぐ。



ようやく絞り出した言葉。



なんで
どうして

私が。


酷い目に合わなければならないの。




……私はあやめさんに酷いことなんてしてないのに。






考えるうちになんだか悲しくなってきて。

涙が流れそうになるのを必死にこらえた。




それに比例するように、蓮と繋ぐ手に込める力も強まっていった。







口元を歪めて笑っていたあやめさんが笑うのをやめた。


笑顔が冷めた表情に豹変して、私を見下したような視線を送りつけてくる。

私の方が身長は高いはずなのに、見下されているような気分になった、




「気にくわないから」



あっさりとはき出された言葉。



間髪入れず、誰にも口を出されないように言葉を続ける。




「女にも、男にも人気のある妃代ちゃんが気にくわないからよ」


「……それだけ、かよ」




隣から呆気にとられた声が聞こえた。



気にくわない。
それだけで……



みんなを追い詰めたのか。




ゆっくりと、こらえていた涙が重力の力によって落ちていく。




それを見てあやめさんの唇が再び弧を描いた。



「いいわよね、お姫様?」



嘲るような声色で、私に視線を向けている。




「泣けば助けてくれる王子様がたっくさんいて。まるで……そう、どこかのくだらない恋愛小説みたいに。ヒロインが理由なく格好いい男の子たちにモテる、くっだらない物語」




……そんなこと、ない。


視線を上げて、あやめさんに向き直って。



そうだよ、自惚れてた。
お姫様みたいな存在だって。

でも。


『そんなわけない』



唇を噛むかのように力を込める。



『みんな、ちゃんと感情があるんだよ』



好きだって
嫌いだって


感情がちゃんとある。



理由なく人を好きになる訳なんてない。

3人が私を好きだなんて、保証はないんだよ。




私は蓮の手を離す。



あやめさんの手にある写真を奪い取って、力を込めて破り捨てた。


『私はもう、過去に囚われたりしない!』



前を向くんだって、決めたんだから。




あやめさんが面倒くさそうに睨み付けてきた。




空気を変えるかのように、パンと手を叩く音が響いた。





振り向くと手を合わせている未来くん。

私を見てにこりと笑った。


「もう、終わりにしましょうか」



――謝ってください。



未来くんが目を細める。


「あなた方2人、妃代先輩に謝ってください……それで解決するとは思ってないですけど」



私に視線を向けたまま、そう言った。




『……謝罪なんていらないよ』




謝罪されたところで何かが変わるわけではない。



加害者が謝ったら被害者の気が晴れる、という話を聞いたことはある。


でも、この反省もしていないであろう2人に謝られたところで気が晴れるというのか?
私は謝って欲しいのか?



答えは、ノーだ。




私は基に近付く。

手を大きく振り上げて、




バチンと、大きな乾いた音を響かせる。





基は赤くなった頬を押さえて私を睨みつけてきた。

彼の口が開く前に、私が口を開く。




『今までの分のお返し、だから』



そう言い放って彼を睨み返して。

ぐるりと方向を変えて彼女の元へと向かう。



あやめさんの目の前に行って、向き合って。
キッと睨むような視線を向けて。

両手で顔を挟むようにバチリと叩いた。




『他人の不幸ばかり望んでると自分が幸せになれませんよ』



パ、とあやめさんの頬から離した両手を下に下ろす。




視線を2人どちらにも向かないような、誰とも視線が合わないような方向を向いて、再びゆっくりと口を開いた。




『もう、これで今までのことはどうでもいいです……これ以降は基も、あやめさんも、私には関係ない他人って思いますから』




自分は、どこか冷めているんだと思う。



今まで引き摺っていたくせに、突き放すように。



『2人にはもう負の感情も、何もありません』




帰ってくださって結構ですよ、だなんて見下すような視線を2人に送る。

迷惑なんだろうな。
突然教室に入ってきたり、引っ張ってこられたと思ったら「帰れ」って言われるんだもん。

……憐れんでなんてあげないけれど。



2人、それと未来くんのボディガード、遊さんが「失礼します」と礼儀正しくお辞儀をして生徒会室を後にした。


静まった生徒会室。
言葉を最初に発したのは会長だった。



「……てか、青峰に対して『お礼参り』をするってところが疑問に残ってるんだけど?」



蓮を一瞥。

はぁ、とため息を吐いて蓮が話した。



「夏祭りん時、ひよこに対しての態度が気にくわないから殴っちまったんだよなー……つい」
「へぇ、僕は妃代先輩とお祭りに行っていた方の話が気になりますね……?」



蓮が未来くんの言葉に視線を逸らした。

全員お互い様だろ、とか何とか呟いて。






『ごめんなさい……』


弱々しくはき出した言葉にみんなが反応した。


「なんで妃代が謝るんだよ……ごめんな。俺、お前らのためだって思って行動してたはずなのに、お前らを傷つけてた」




だって。



誰かが好きとかじゃないのに。
誰かが特別なんだって、思えてるわけでもないのに。



……取られるのは嫌、だなんて。



まるで、おもちゃを与えられた子供みたいな独占欲。




『私は悪い子で、最低なんです』






そう誰かに伝えたいわけでもない言葉を吐き出した。



最低だ。

人の気持ちを、踏みにじってるのは私だ。





「……それでも、いいんです」




その言葉に顔を上げた。





未来くんが目を細めて私に手をさしのべた。






「選べてなくても、いいです。手放したくないって思えるほどには、僕たちのこと大切だって思ってくれているんですよね?」




前に、進めているじゃないですか。




そういった未来くんの手を取った。




「まぁ、大和会長は辞退しましたし一騎打ちですね蓮先輩」

「おーそうだな」

「待て待て待て!辞退なんてするわけないだろ!」

「自分で言ったことを取り消すんですか?」


くすくすと笑いながら、からかうように声を掛け合う。





「おいひよこ、なんかお詫びとか言って白鳥が飯おごってくれるってよー」

「会長呼びには戻ってくれないのな……」





前を向けている。



私は……

前に、進めている?





これからは3人と、向き合える気がする。



私は明るく、何もなかったかのように笑い合っている3人の方を見てそっと微笑んだ。


 

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