BAD APPLE3






「ここにいたのかよ……」



急いで来たのか、息を切らした蓮が目に映る。

あぁ、やだ、来ないで。
来ないでよ。


取られちゃう。
蓮も取られちゃう。


蓮が私から視線を2人に向けて睨みつけた。




「……白鳥ぃ、あの男といたりその女といたり……どういうつもりだぁ?」




あの男……?


一瞬だけ不思議に思ったけど、あの男その女ってことはもしかして……




……基?




会長は蓮の問いかけにゆっくりとまぶたを下ろして「さてな」と嘲るように呟いた。


会長の唇が弧を描く。




「俺が誰といようが、俺の勝手だろ」




蓮が全員に聞こえるように舌打ちをして私の手を掴んだ。



「行くぞ」

『待って』



「あ?」



誰かが仕組んだような、出来事なんだって。

私に関わってくれている3人が巻き込まれてるんだって。


それで、あやめさんと……おそらく基も、関わっていて。



ちらりと生徒会室内を見るとそこには馬鹿にするように笑っているあやめさんと、少し苦しそうな顔で自分の首を触っている会長の姿が目に映る。





『……悪くない』




……好き?
会長が、あやめさんを。



落ち着いてみればそんな風には見えない。

だって、彼は。



会長は、ずっと、ずっと……ちゃんと笑ってない。



あやめさんと基が関わってるっていうなら……きっと私のせいだ。

私のせいで、巻き込まれている。
全員。





『会長は悪くない』





ゆっくりと、恐る恐る吐き出した言葉に反応したのはあやめさんだった。
彼女は一瞬何とも言えない顔をしてから、また嘲るように言葉を吐く。



「そうね、悪いのは妃代ちゃんだわ」




見下すような視線を向けたあとに、楽しそうに微笑む。



一歩、

一歩。


あやめさんは私に近づいてくる。



蓮の手の力が強まる、守ってくれているかのように。




少しだけ幼く見える綺麗な笑顔を私に向けるあやめさん。

綺麗なはずなのに、どこか残酷に見えた。




「優しい人たちに甘えて、依存しているくせに……否定しちゃって。離れていくのが、怖いくせに」




……そうだよ。
怖い、ってわかったんだ。



みんなが……大切なんだって。



「妃代ちゃんが悪いから……大和は私のおもちゃになっちゃうのよ?」



おもちゃ。
淡々と吐き出された言葉。


あやめさんは基と付き合ってるから。
会長は彼氏では、ない。


だけど、おもちゃ?



状況を理解しきれていない私と蓮。

蓮が威嚇するように低い声であやめさんに言葉を向ける。



「どういうことだよ」



あやめさんはクスリと笑って
「妃代ちゃんネタで脅せばなんでもしてくれるしさせてくれるってことよ」
と私の耳元で呟いた。



あやめさんの言葉に、会長は無意識的か意識的か……ゆっくりと自分の首を再び触る。




『首絞めたのも、あやめさん……?』



絞り出した声に笑みを浮かべる目の前の彼女が怖い。




「だってつまらなかったから」

ゆっくりと息を吸って、笑みを深める。

「大和は私のものになったのに、妃代ちゃんのことばかり考えてつまらなかったから、お仕置きしたのよ?」






「ふざけんな」


私の横から声が発せられる。



蓮が、敵意むき出しにあやめさんを睨み続けた。



そんな蓮にも動じず、笑い続けるあやめさんが制服のポケットから紙のようなものを出した。


……写真?




「妃代ちゃんが悪いんじゃない。こんな写真撮られるから」




あまりにも残酷だ。

中学の頃の傷を抉るなんて、馬鹿げてる。




「……おいっ!約束と違うだろっ!」

「こんな写真を撮る私が約束を守ると思ったの?朝日学園の会長様も案外馬鹿ねぇ」




目に焼きついて離れない、2年前の自分の姿。




“お前なんて遊びだよ”



そう笑ったあいつに押し倒された。

人が来たおかげで未遂で済んだけれど……人が来なかったらあのまま、無理矢理やられてた。


昔のトラウマが、思い返される。



なんで、そんな写真があるの?




目の前に掲げられた写真を見た私を見て、あやめさんは嬉しそうに笑う。


――そう、妃代ちゃんは苦しんでくれなきゃ。




ねぇ、お願い。

手を、離してよ。


言葉に出ない想いは蓮に届くはずもない。

それどころか、更に力が強まる。




なんで?


どうして、私にこんなことをするのか。
周りの人を、巻き込んでまで。





口を開き言葉を発する。

その言葉は、後ろから聞こえたドアの開く音によってかき消された。




「あぁ、ここにいましたか」


雰囲気を無視した爽やかなセリフ。

未来くんが静かに生徒会室へと入ってきた。



後ろにはあの小さなボディーガードの女の子。

……それと、もう1人。





「……てめぇ」


蓮が低い声でそう呟いた。




落ち着いてください、だなんて未来くんが呆れたような素振りを見せる。



落ち着けるわけ、ない。





『……基』





ボディーガードの子に掴まれている基の姿が目に映る。




基は悪態をついて舌打ちをした。




「お取り込み中失礼しました……が、僕にも彼にも、関係のある話ですよね?」


紳士的な笑みを浮かべる未来くん。




「僕、いまいち状況が掴めていないのですが……順を追って説明してくれますか?」



冷静を装って笑い続ける未来くんが基に向けていた視線を会長へと移した。





「ねぇ、大和会長?」





彼は笑顔を崩さない。

ただ、単調に言葉を吐いた。




基の方を控えめに見ると、少女におとなしく掴まれている、抵抗もしようとしない。
……しても無駄なのだろうか。

だとしたら彼女、どれだけ強いの……か弱そうな女の子に見えるけれど。





「……俺は倉持に写真で脅されてた」



あやめさんの持っている写真に視線をやってつぶやいた。



未来くんが不思議そうに写真?と首を傾けた。
会長の視線を追ってあやめさんの手元へと視線が向かう。




「妃代が、犯されそうになってる写真だよ……そこの男にな」

いいたくなさそうに口を開いて未来くんの後ろ……基へと視線を移した。


「はぁ、そうですか」



未来くんがニコリ、と笑う。

「遊、もっと力をいれてくださって構いませんよ」


視線を向けないまま笑顔でそう言うと、ボディガードの女の子……遊さんが力を込めたのか、基が少しだけ悲鳴をあげた。




「……彼氏だったんだから何しようが構わないだろうがっ!」

「脅しに使えるということはいやがってるということでしょう?不合意なら犯罪となんら変わりはないとおもうんですけど」


基の言葉をあっさりと一刀両断する。




静まった瞬間、間髪入れず高い笑い声が響いた。
狂気じみた、笑い声が。





 

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