あの日私は、今の私は4







『うわぁー……すごい人だね』

「そうだな、はぐれんなよー」

「「はーい!」」

「あんまり無駄遣いしないでよ?」




賑わうお祭り会場。

花火大会はもう少ししたら始まるようだ。




「わたあめー!」

「かきごおりー!」


きゃっきゃと騒ぐ双子ちゃん。



出店のおばちゃんの何味がいいか問われる。



「いちご!」
「めろん!」
「僕はブルーハワイで」

「同時にいうな!出店の人困ってんだろーが」


『あはは、大変だねお兄ちゃんは』

「お兄ちゃん言うな……」


なんか順番に並べて言わせてるし、なんか可愛い。





「ひよこなに食う?」

『あ、私はいちごがいいな』

「おー。おばちゃんあといちご2つ」



蓮もいちごか……なんか可愛いな。

ていうか自分のは払わなきゃ。


払おうとしたけど「こんくらいはおごる」って押し切られた。
……お金ないくせにこういう時見栄張ってどうするのさ!



「妹と弟の子守かい?大変だねー」

おばちゃんがそう言って蓮をみたあとに私を見た。

……あ、妹と間違えられてる。妹にカウントされてる。


うーん、まぁいっかー。




「そうっすよー。あ、でもこいつは彼女です」

「あら、そうなのー」



なんか勝手に彼女にされたですよ?



屋台を離れたあとに「彼女じゃないし!」と反論したら「婚約者候補ですとかめんどくせー」って返された。



別に勘違いされたままでいいじゃん!




「あっちの方が花火見やすいみたいだよ?」



龍馬くんが川原の方を指差してそう言った。

あぁ、確かそうだったはず。








……と、移動しているあいだに。

見事に迷子になりましたよ、えぇ。




なんておバカなの、私。



とりあえず、川原のほう行ってみようかな?
人波をかき分けて進んでいく。


うぐぐ……多過ぎる、つーぶーれーるー!




蓮でかいからきっと見つけやすいはず……!と期待をしながら進んでいく。
ていうかそうであってください、1人でお祭り会場なうとか寂しすぎて泣ける。





「あれー?妃代じゃん」



ドクリと大きく心臓が脈打った気がした。



前方から聞こえた聞き覚えのある声。

でも、私は俯いたまま顔をあげようとしない。
……違う、あげることができない。




この声は、ずっとずっと、忘れていたかった声。



会いたくなかったなんて、思う。

やっぱりお祭りになんてこなければ良かった。
ロクなことがないもん。




『……基』

「ひっさしぶりじゃーん。元気にしてたぁ?」



中島基【なかじま もとき】。





私の、元彼。



彼の隣には、あの日と同じ女の人。
私の中学校の先輩だった人。
……浮気相手だった人。



あぁ、この2人まだ付き合ってたんだ。


ていうか、

私が2番目だったんだっけ?




“お前なんて遊びだよ”
“お前になんて興味ねぇし”




そう言われたんだっけ。




「うわー、1人で来てるのかよ?さびしーなー?」




隣にいる彼女がくすくす笑う。

「基。そういうこといっちゃ駄目よ」



倉持あやめ【くらもち あやめ】さん、1つ上で、鹿央女子に通ってる人。
臨海学校の時は、鹿央の人達避けてたから会わなかったけど……



「ごめんなー?3年前、一緒に花火大会これなくて」


知らないって思ってるんだ。
あの日、私は受け止められずに逃げたから。


知ってるんだよ。

あやめさんと来てたんでしょ?
キスしてたんでしょ?
それ以上のことだって……してたんでしょ?

見たん、だからね。



あの日以前から2人は付き合ってて、私は遊びで……。ずっと2人で笑ってたんでしょ?



だって、あやめさん。私と基が付き合ってたの知ってるのに、「浮気した」って怒ってなかった。笑ってたから。




人が多いのに。

どうしてか、2人の声が鮮明に聞こえる。

聞こえて欲しくないのに、聞こえる。


耳障りな、笑い声が。



どんどん苦しくなってきて。
その場でうずくまって、息を、整える。



落ち着け落ち着け落ち着け!

もう、どうだっていいじゃんこんな最低な奴ら。



無視しよう。もう関係ないって。



でもでもでも……怖い。

怖い怖い怖い。






また誰かを好きになって、また同じことが起きたら。
もう、私は……壊れてしまう。



怖い、もういやだ、何も見たくない。

お願い助けて、誰か……助けて……







「――っ、ひめッ!!」



 

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