あの日私は、今の私は3





会長は突然のことに対応しきれなかったのか、ゆっくりと枕が飛んできた方向とは反対の方に倒れた。



「まおーはしゅんがたいじしたぞ!!どぉーだ!!」



「ほーぉ……」



会長がゆっくりと起き上がる、枕を掴んで、黒いオーラを背負いながら。


立ち上がり、黒い笑顔で俊太くんに近づいていく。



「ずるいぞ!まおーはもうたおした!!」

「よくぞ倒したなぁあ?しかし勇者よ、魔王様には第二形態というものがあってだなぁ……さっきよりもパワーアップした我が力を思い知れぇぇえ!」

「しゅんがまけちゃうー!!」




ノリノリか。

パワーアップって、ただ頬つねってるだけですけど?

千絵ちゃんも本気にして泣きかけてますよー?




軽いノックの音が聞こえた。


あ、バイト終わったのかな?

ノリノリで悪役の高笑いとかしながらただ頬をつねってる会長を気にしつつも、ドアの方へと向かう。




『おつかれさま』



「thank you……って何やってんだあれ」

なんか無駄に発音良くて腹立つ。



『……RPGごっこ?』

「意味わからん」


私にもわかんないわ、ごめん。
私も理解できてないんだ。


蓮に気付いた千絵ちゃんが泣きそうな顔をして駆け寄ってくる。



「蓮くん!しゅんがまけちゃうよぉー!!しんじゃうよぉー!」

そっか、召されちゃうのかー。
死因なんだろうね、頬抓られ死?


「おーい会長……」

「会長じゃない。今の俺は大魔王」

「意味わからん」



魔王って第二形態になると大魔王になるのかな?




「蓮くんやっつけてー!たすけてー!」

「ふははは!貴様に助けなど来ないぞ勇者……!いでっ」

「いい加減にしろっつの」


呆れた蓮がチョップを会長にかました。

会長が「やーらーれーたー」とか超大根演技でバタリと倒れる。



俊太くんは「やっぱり蓮くんはつよいんだぞ!」とか目を輝かせて笑う。


……ていうか人の部屋で何を繰り広げてるんだ。

変な寸劇はやめていただきたい。




「ひよこ、会長。ありがとな……何かもう色々と」

『大丈夫だよー』


会長は動かない、ただの屍のようだ。




「まおーたおした!」

「はいはい良かったな」

「でも蓮くんがだいまおーたおしたから、蓮くんが1番なんだ!」

「はいはいありがとな」


なんてほのぼのとした会話をしながら部屋を出て行った。

会長はドアがしまる音と同時に起き上がる。



あぁ、また騒ぎ出さないように黙ってたんだ。





「何か疲れた……」

『すごく楽しそうでしたけどね』


そう私が言うと「まぁな」と苦笑い。


この人が3年生トップの成績だなんて、私認めない。ミトメタクナイ。



「俺部屋戻って寝るわ……おやすみ妃代ー」

『あ、おやすみなさい』



まだ早いと思うけど……疲れてるのかな?











1週間同じような繰り返し。


ひたすら課題プリントをやって、4人かクラスのみんなとお昼を食べに行って夏休みの宿題をやって……

私、頭良くなったかも?……なんてね。



今日も課題が終わって、お昼タイム。
花火大会だからってことで、出店のことを考えて節約してファーストフード店。



食べ終わって「じゃあまた会えたらねー」なんて言ってみんなと別れた。

……まぁ、行かないから会えないけどねー。
お部屋でまったりしてますよーっと……



とか思ってたら手を強く引っ張られる。



『うわっ!?』

「ちょっとついてこい」

『は!?』


蓮に引っ張られて無理矢理何処かへ連れてかれた。


目の前には小さな、家。




『……蓮の家?』

「おー」



……なんで?




「ただいまー」

「おかえり蓮くん!」




ドタドタと明るく現れるのはあの双子ちゃん。



「あれ?他の奴らは?」

「結衣【ゆい】ちゃんと薫【かおる】くんはでかけた!龍馬【りょうま】くんはあっちでお出かけの準備してるよ!」



ホントに6人いるんだ……きょうだい。

ていうかなんで私は連れてこられたの?




「お前、浴衣持ってねーだろ?」

『……え、うん』


寮だからね……実家に帰ればあると思うけど



「貸してやるから」



『は?』

「龍馬ー、母さんの浴衣あったよなー?どこだー?」

「んー?和室の押入れに入ってないかな?……蓮兄着るの?」

「誰が着るか!」

「ちょっと待って、今行くからー」



お、会ったことない弟くん……


階段から降りてきて姿を現したのは、少し小さめのメガネをかけた子。
蓮とは正反対の、真面目そうな、少しおどおどしてそうなイメージの子。



「あっ、初めまして。龍馬といいます……」

『似てないね……可愛い』


あまりにも似てないから思わず呟いた。

可愛いって言ったら少し嫌そうな顔されたけど気にしない。




「まぁ、俺ら血ぃ繋がってねぇしな」

『え?』


なんかまずいこと聞いた気がするんだけど!?
1人固まっていると龍馬くんが少しだけ笑う。



「気にしなくていいですよ。僕ら自身そんなに気にしてませんから」

「血ぃ繋がってなくても小せーときから一緒だしな、特に気にしてねーわ」


うーんと、たぶん……どっちも再婚で連れ子ってことだよね?




浴衣を出しに行った龍馬くんが可愛い浴衣を持って戻ってきた。


「はい、どうぞ。この人に貸すんでしょ?蓮兄」

「おう、そうそう」




あぁ、そうだ……なんか浴衣貸してくれるとか言ってたっけ?



『ありがとう……でもいいの、私行かないから。友達と行くとか、あれ、嘘だから』




まややんは彼氏と行くだろうし。
他の子達とも約束なんてしてない。


「は?なんで。じゃあ壮介たちと行けばよかったじゃねーか」




『あのお祭りに行きたくないの!!……行きたくないんだもん』




人の家で大声出して、ごめんなさいって感じだけど。
本当に、行きたくないから。


だって、あそこは、あのお祭りは。







元彼が浮気してるところを目撃してしまった場所だから――……





「……ひよこ。お前中になんか着てっか?」

『は?え、あ、うん』

「じゃあ脱げ、和室使っていいから」

『変態……?』

「違う」



うわぁい、蓮くんってば、怖ぁい!
とか言おうと思ったけどチョップかまされそうな雰囲気だったからやめた。

言われた通り制服を脱いで、タンクトップと短パン姿になる。



しばらくして来た蓮に浴衣を渡された。


『だから、行かないから』

「いいから、着ろ」



ていうか着方わかんないし。

浴衣とか自分で着たことない、中学の時はお母さんにやってもらったし。




取り敢えず羽織ってみて、それでもわかんなくて。

困ってる様子の私を見て蓮が近付いてきた。




「やってやるから手上げろ。ほれ、バンザーイ……いや、もう少し下げていいから」

バンザイだといったのはあなたです。


慣れた手つきで浴衣を着付けていく。




『……お母さん!』

「誰がお母さんだコラ」



着付け終わったのはいいけど……私行きたくない。
そして行く人もいない。



「よし、行くか」


蓮が手を差し出して笑う。


『は?蓮、先約って……』

「こいつら」


浴衣を着た千絵ちゃんに俊太くん、それに龍馬くん。


着付けが慣れてるのは毎年弟妹のためにやってるからかな?
どうせなら蓮も着ればいいのにー……


イケメンの浴衣姿……いいと思います。


きょうだいを連れてってあげるってことだったのか。



「ひよこさんも行くの!?」

「そうだな、行くぞー」



蓮をみて、思わず吹き出した。



『蓮って見かけによらず家族想いだよね』


見た目不良なのに。




蓮は私を見てどうしてか笑った。




『ていうか私は、』


行かない。という言葉を遮られる。


「よくわかんねぇけど、嫌な思い出があんなら楽しい思い出作って上書きしちまえばいーんだよ。ほら、行くぞ!」



手を引っ張られる。

彼は、前へ進むための道しるべのように。
明るく、笑った。







 

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