似合うと思ったから2






部屋に戻ったあと取り敢えず水着を出して自分に当てて鏡の前に立ってみる。

……うん、いい買い物をした!



夏休みになったらまややんとか他の子誘ってプールとか行きたいなぁ。



「……それ、臨海学校のですか?」

『なんで勝手に入ってきてるの!?』


落ち着いた声に振り返ると大きな箱を持ってドアの近くに立つ未来くんの姿。



……え?何々、なんなの!?
何ですかそのでかい箱は。


また君は私に暴言でも吐きに来たのですか。



「一足遅かったですね」


はぁ、とため息をついて箱をどさりと下ろす。

勝手に部屋に入ってきて荷物を置いていくな。




箱の中身を覗いてみるとたくさんの水着。


「妃代先輩に似合いそうなの持ってきたんですけどねー」



ワンピースタイプの水着がごっそりと。

金持ちすごいな。これ絶対1点ものだよ。特注だよ。



「まぁ、僕着ませんし……あげますよ」

『さすがにこの量は貰えないよ!』



1点もの(推定)がごっそりってどれだけ値段いくのよ。
でも奥さん、お高いのでしょう?だよ。

何万円とかいくんじゃないだろうか。


「僕に着ろというのですか?」

姉妹いないのか未来くん。
1人っ子っぽいな。我儘坊ちゃん。


じょ、女装か。

『いや、意外と似合うかも……』
「気持ち悪い想像やめてくれませんか?」



これ高いよね。貰えるはずがない。

こんなに水着あっても困るし。
何年分あるのよ。水着など1着で十分じゃないか。


肯定をしない私にしびれを切らしたのか、未来くんはわざとらしく大きなため息を再び吐いた。



「……わかりました」

持ち帰るのか?

「条件を出しますからもらってください」


持ち帰らないのかい。

……条件?

彼に問いかけると、困ったような笑顔を浮かべて口を開く。



「友達にでも配ってくださいよそれ。僕が持っていても処分されるだけですから、もったいないでしょう?」


条件、なのか……?

まぁ、未来くんが持ち帰っても処分されそうだよね。
彼にもったいない精神あったのか。


それなら……友達にあげたほうがいいかな?

確かに、誰かしらは喜んでくれそうだ。




『うん、それなら』

「なんでワンピースタイプの水着ばかりかわかります?」


『なんでだろう。
……わ、私に似合うと思ったから……なん』
「馬鹿ですか?」


うん、わかってたよ。
そんなわけないですよねー。


わかってたからせめて「なんちゃって」を言い切らせて下さいよ!



「体型が隠れるからです」



……あー、そう。

『私太ってるんだっけ?』


体重、平均のはずなんだけどねー。

うんまぁ、痩せてはいないのは自覚してる。
でも、太ってもいないと思うの。標準だと思うの。

これは私の思い違いなのでしょうか?




「……冗談だから怒らないでください」



女性に体型の冗談は許されないことを覚えておいた方がいい、未来くん。

とりあえず君はもう私の敵だ。



「僕はビキニよりワンピースの方が好きだからです」



なるほど。
……なるほど?

それが本当ならちょっと可愛いな。




未来くんは箱を私に押し付けてドアを開ける。



「鍵はちゃんと閉めた方がいいですよ」

『はーい』



では、おやすみなさい。と言って未来くんがドアを閉めようとする。




「あ!僕とデートするという条件忘れないでくださいね?」
『は?』

私そんな約束してないよ!?




「あはは、誰が“友達に水着配ってください”が条件っていいましたー?そんなの条件になりませんよね?条件をいつ言うかなんて僕は言ってませんよ?」

『でも……っ』

「もう貰ったのに条件を飲まないんですか?酷いですね、1度いいと言ったのに条件放棄するんですか?」

『やっぱり水着返す!』

「返品不可でーす。では、おやすみなさーい」



バタリ、と静かな音を立てたドア。




『なんか、負けた!』


卑怯すぎる……!

デートって!面倒くさいな!



あの子ちゃっかりしてるよね!
何という策士!たぶん私がアホなだけだけど。




ガチャリ、と部屋の鍵を閉める。



たくさんの水着を抱えて、クローゼットの中に取り敢えず押し込んでおいた。



私はため息をついてベッドに沈み込んだ。


 

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