優しさに触れて2











走って

走って



息を切らしながら、速度を緩める。




『はー……』




3階から5階へ駆け上がってみた。


この階来たことなかったなぁ。

ついでに探検してみようかな?



「……妃代先輩?」


『あれ、未来くん?』



なんで朝からこんな階にいるの君は。




「おはようございます。髪が乱れていますよ?」


『えー、本当?』



走ったからだなぁ。


せっかく結ぶの頑張ったのに……

お団子、大変なんだよ、結ぶの。




「息を切らしてどうしたんですか?」

『ちょっとね……』




階段の下から会長の呼ぶ声が聞こえてくる。

なんか、蓮も加わってるし。殴ろうとしてたじゃない、さっきまで。協力するなよ!



『じゃ、じゃあ未来くんじゃあね!』




もう1つの階段から降りようそうしよう。


なんか捕まったら面倒くさいことが起きると私の直感が言ってる。




「こっちです」



未来くんに突然引っ張られる。

状況をわかってくれたようだ。



入った先は、空き教室。




黒いグランドピアノが置いてある。



『音楽室?』

「えぇ。現在は音楽の授業はなくなったので、使われてませんがね」




使われてないわりには、綺麗だなぁ。


掃除はちゃんとしてるのかな?
楽器とかもホコリかぶってない。


案外丁寧な学校だったりするのかな。




隠れるようにドアから見えない場所で2人で座る。



かくれんぼみたいだ、昔よくやったなぁ。

2人でだけど。“ふーちゃん”と。

私を見つけられなくて泣くふーちゃんを何度も慰めたことを思い出す。



ぽすり、と。突然膝に重み。



膝の上ににこりと笑う未来くん。




『……なにやってるの?』

「膝枕ですよ、知らないんですか?」


知ってるけども!


『何勝手に……!』

「大声出さない方がいいんじゃないですか?先輩方に見つかりたくないんでしょう?」



私が都合の悪そうな顔をすると、未来くんはいたずらが成功したときの子供のような顔を私に見せる。


……毒舌がなけれな可愛いんだよなぁ、後輩として。




「で、なんで逃げてるんですか?」



少し眠たそうにしている未来くんが私の目を見る。



『捕まったら面倒くさいことが起きる気がして……』

「いいわけですね」



……は?


くすりと笑う未来くんは私から視線をずらさない。


「本当の理由はなんですか?顔が、赤いですよ?」



――会長と、何かあったんでしょう?




そういって
見透かすように、余裕そうに
未来くんが笑う。




昨日のが、逃げてる理由、なのかな。

無意識に、恥ずかしがってたのかな?



『キス、されたから』

「……会長に、ですか?」




少しだけ、

少しだけ、未来くんの表情が曇った気がした。



「それだけで顔を赤らめるなんて……意外と可愛らしい人ですね、妃代先輩」

皮肉気味に、未来くんが呟く。

可愛らしいって……



そらされていた視線が再び私に向く。



「噛まれたんですよ」

『は?』


突然何事?



未来くんは起き上がって、真面目な顔で言った。




「狼に噛まれたと思えばいいんですよ」



……狼。犬じゃなくて、狼?



『狼に噛まれたら結構重症じゃあ……』

「甘噛みですよ、甘噛み」



甘噛みなら大丈夫……なのかな?


微妙なたとえにうーんと悩む。



あ「男はみんな狼よ!」的な言葉から狼にしたの?

よくわからないけど……まぁ、いいか。



「だからこれも、甘噛みなんです」

『え……?』



言葉を理解できなかったのは一瞬。

すぐに言葉を理解することになる。



ほんの、少し。

未来くんの唇が、私の唇に触れた。


『……っ!?』



昨日から、私油断しすぎじゃない!?

もっと警戒してかなきゃ、ダメだ!



「これで僕のことも意識してくれますよね、妃代先輩?」


最大級の笑顔とともに、再び近づく顔。


「僕は、自分のおもちゃを人に取られるのが嫌いなんですよ……」

耳元でそう呟く彼。


私はおもちゃじゃないから……!




「おい黒松、何してやがんだ」

「あぁ、蓮先輩。みつかっちゃいましたか」



残念、と呟いて私から手を離す。
た、助かった……



「妃代。制服出来たから昼にでも取りにこいって、校長から伝言」


後ろからひょこりと会長が顔を覗かせる。



話ってそれか、なんだ。

男子校だから、制服なかったんだよね、今着てるのは前の学校のやつだし。



『分かりました』



しばらく黙っていた未来くんが口を開いた。




「キス、しちゃいました」


てへ、とでも言うような表情で。

そんなことを突然言った。




「……あ?」

「これで、会長とおあいこですね」




立ち上がりホコリを払うような動作をする未来くん。


その動作を終えたあとに、私に手を差し伸べる。




 

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