噛みつくようなキスを、2




部屋に入ろう……としたら奴が待ち構えていた。

そう、会長。



「どこ行ってたんだ?」



髪がしっとりしてる。
あ、お風呂入りに行ってたのか。

男子は1階に大浴場あるんだよねー。いーなぁ広いんだろうなぁ。



『ちょっとコンビニに。あ、アイスいります?』

「こんな夜にか?女だって自覚してんのかお前。おう、いる」

『蓮が送ってくれたから大丈夫ですよ。はい200円でーす』



「そうか、なら良いか……って200円は高いだろ!それ60円アイスだろ!しかも思いっきり溶けてんじゃねーか!」


わーいつっこみがはやーい。


いいじゃない、溶けてたっておいしいもの。
超ガリガリしてんだよ!

今はフォーメーション液体!だけどね。
そこは飲んどこうか会長。


140円は運送費ですよ?



『細かい男だなぁ……嫌われますよ?』

「細かくないわ!誰もがつっこむわ!!」



そういうものかなぁ?



はぁ、とため息をついた会長が私の背中を押した。



「アイスとっとと置いてこい。ホールの方で飲みもんおごってやるから行くぞ」

『ホール?』



なんぞ、それは。



「ホテルとかによくある広い休憩所っつうか、広間つうか……みたいなところだよ」



そんなところあったんだ。


なんかおごってくれるみたいだから遠慮なくついていこうじゃないか!



私は一旦部屋に入ってアイスを冷蔵庫のなかにつっこみ、楽な格好に着替えて部屋を出た。



連れて行かれた先は生徒たちが数名騒いでいる場所。

おぉ……広い!



豪華だよなーこの寮。



一部屋一部屋広いし!

ホール(自販機設置)なんてあるし!

(私には関係ないけど)大浴場あるし!



素晴らしいね!一体いくらなんだろうね!
私は父さんがおそらく払っているから関係ないけどね。


ほら、と渡されたジュースを受け取り近くにあったふかふかチェアに腰を下ろす。



会長は私の右側に座った。



「つーか、婚約者のお誘いに対してそのパジャマ同様の格好ってなんだよお前は」

『楽な格好が一番じゃないですか』



さぁ、みんなで復唱しようね。
スウェット、最高!!



「遠慮なく年上にたかるしな」



カシュ、と缶ジュース独特の音を立ててプルタブが開く。



炭酸の、シュワーという音がやけに耳に残った。



『たかってないです。会長が奢ってくれるって言ったんです』

「普通は遠慮するんだよ、普通はな」



そんな常識私シラナイ。うん。



会長の言葉を無視して炭酸を一気に口に流し込んだ。



ぷはぁ、美味しい。



私の行動を見ていた会長は呆れたように項垂れた。



「ガサツというかー荒っぽいというか?周りを気にしないな、お前は」

『男同様に見られるならそちらのほうが楽ですね』



恋愛対象に持っていかれなければどうでもいいです。



「お前さぁ」



会長が私の髪をぐしゃぐしゃと片手で乱す。

もう片手には缶コーヒー。
大人ぶってるつもりか。
違うか。



「彼氏いたことないだろ」






会長の言葉に、私は動揺した。

冗談でもいうように笑う会長。
少しだけ、腹が立つ。



「……妃代?」



私の動きが止まったことに疑問を感じたらしい会長が私を覗き込む。



『……いました、けど』



思い出したのは、元彼。



だけど、そいつは……私が恋愛を嫌う原因の奴。



あんなことになるなら。
もう、恋愛なんてしたくない。



黙り込む私。
バツが悪そうに会長がガシガシと頭を掻く。



「あーその、なんだ……悪かった、な?元気出せよ、ほら、これやるから」



そういってポケットから飴を取り出し、私に握らせる。
……子供か。



「あれー?君が噂の妃代ちゃん?」



気まずい雰囲気の中に入ってきたのは

「取り敢えず女の子に興味がありまーす」と顔に書いてあるような男達。


……出会いないの?
近くに女子校あるんだからそこ行けば出会えるとおもうんだけど。



「可愛いねー」

女の子の誰にでも言ってそうなそいつの言葉。
もう、1人になりたいんだけど。



「あっちで一緒に話さない?」



そういって1人にグイっと手を引っ張られた。



『……ッ、やだっ』

「おい、お前ら」



叱りつけるような口調で隣にいる会長が口を開いた。
……なんかデジャヴ。



「会長は十分お話したでしょー?」
「泣かせちゃってさー、会長さいてーい」


馬鹿にするような口調。



ケタケタと笑っている、なんかムカつく。



……泣いてないしね!



「桃瀬ちゃん、会長のものじゃなかったみたいだしー?」



グイグイ引っ張られる手。

力強い強い、痛い痛い。




肩に触れた、手。

その手によって右側へと引っ張られる。



そして



唇に感じた、温かさ。
それに、少しだけの痛み。

目の前には、長くて綺麗な睫毛。




会長の、噛み付くような、キス。



「俺のだよ」



目の前にいるその人は
男達を牽制するかのような笑みで、そう言った。



「会長怖いから……っ」
「じょ、冗談だってー」



男達は怯えたように去っていく。



……怯られるような顔ではなかったけど
この人、私がいない時に何したんだろう。



「部屋に戻るか」



近い距離のまま、優しい声でそう言った。



『……はい』



手を引っ張られて、部屋の前まで連れて行かれる。



「何かあったら、俺に言えよー」



部屋の前で、私の髪の毛をぐしゃぐしゃとしながら会長が笑った。



「おやすみ」



小さく笑って彼が部屋に入っていった。



部屋のドアを閉じて、布団に包まる。



……意味わかんない!


なんなの!?強引なの!?

いきなりキスする意味がわかんないから!



私別に会長のじゃないし!
婚約とかお断りさせてもらってるし!




私はもう、恋愛なんてしないって




決めてるんだから……!


 

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