「いいよ、楽しんできてね」

彼がそう言ったのは数時間前。


「どこ行ってたの」

そう言われたのは、数分前だ。


どうやらそいつは1人で飲んでいたようで、あり得ないくらいに酔っていた。

珍しい、雄大が1人で飲むことなんて滅多にないのに。


「飲み会行くって言ってたでしょ」
「誰と」
「会社の子たちと!ほら、日高さんとか」
「とか?」
「日高さんの周りに女子グループあんでしょ、その人たち」


彼の座っている床の周りには缶チューハイやらビールやらが転がっている。

「……相模は、」

悪酔いしてるのか。
絡み酒なのか、雄大は。

「相模ぃ?あいつなんていないよ、女子会だって」


俯いていた彼は不機嫌そうな顔をあげた。

何だ、君は何が不満なんだ。
真っ赤な顔が相当酔っている証のようだ。


「飲み会ばっか行ってないで俺にも構って」

ひっく、としゃっくりをしながら雄大が私の服の裾をちょいちょい引っ張った。

「ずるいよぉ、明菜ちゃんは俺のなのにぃ、他の人ばーっか明菜ちゃん取るもん」


ぴぃぴぃと小鳥のように鳴いて、私を見ていた。

大丈夫?雄大相当酔ってない?


子供のように嫉妬心丸出しな雄大にあやすようにキスをする。

えへ、と嬉しそうにへにゃと表情を崩す。

雄大は私の腕を強く引きながら床に倒れ込んだ。
いくつかの缶ががらがらと音を立てて倒れる。

「……ん、」


半ば無理矢理なキスをする。

普段は遠慮ばっかで弱々しいくせに、酔っ払いは遠慮もなしに舌を入れてくる。
酒臭い。私も人のこと言えないんだろうけど。

押さえつけられては離れられない。


繰り返す中で、ふと唇が離れた。


「……明菜ちゃん、」

眠たげにとろんとした表情。

「勃った」

酔っ払いは恥ずかしげもなく。
そう、普段なら言いもしない言葉を、


「セックスしよ」


つらつら、と……


「ちょっと待て待て!落ち着いて!あのー、風呂!お風呂入りたいから、ねっ?」

誰が悲しくて酒缶まみれのリビング床で……!


雄大がにんまり笑って、私を抱きかかえる。

……んん?


「俺も一緒に入るぅ」

あ、やばい。


「へ、変なこと、しないでよ」
「変なことってなに?明菜ちゃんもーちょっと詳しく言って」
「言わせようとすんな!」


心底楽しそうな雄大の顔は、それはそれは悪魔のようでした。
普段は天使のくせに。









次の日の朝、雄大は目覚めるなり顔を青くして隣の私に土下座した。




本音と建前






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