「先生ー、さよーならー」
「はい、サヨナラー」
生徒たちの声に返答して、職員室へと歩いていく。
自分が学生だったころにはあまり入りたいとは思えなかった職員室の中へと入って、自身の席へと歩いていく。
「玲ー、次のテストの問題作ったか? そろそろ作んねーと時間きつくなるぞ」
「仕事中くらい形式だけでもどうにかしたらどうですか、平川センセ」
「うわ、何かお前に敬語使われんのキモ」
まぁ、何十年も一緒にいる幼馴染に敬語って言うのもな。
違和感しかねーわ。
でも、ほら、ほら。
少し離れた席の村田が睨んでるから。
あいついつまで俺を目の敵にするつもりだよ。もう社会人だからちゃんとするわさすがに、俺も。
「俺、どこだっけ範囲」
「教科書53ページから70ページまでー化学式のとこだな」
「賢介どうせまたちょろい問題作るんだろ。じゃあ俺難しめにすんわ」
「簡単じゃねぇよ!」
「いや、お前の問題はちょれーよ」
あ、敬語忘れてた。まいっか。
化学式の計算、大体パターン化してるからな。
油断してるやつを貶めてやろう、ざまあみさらせ。
学生にとっていやな教師だな、俺が学生だったらこのクソ教師、ってなるわ。
「あ、集めたノート教室に忘れてきたわ」
「しっかりしろよ」
「お前には言われたくねぇ」
俺は席を立ちあがって職員室を出ていく。
ゆっくりと、1年生の教室がある4階へと歩みを進めていった。
このくそみたいに長ったらしい階段とか。
肝試しみたいな夜の学校で通りたくなかった理科室とか。
智がいつも本を読んでた図書室とか。
裕太がお菓子を貰いに行っていた家庭科室とか。
華と出会った、屋上とかさ。
始めは目新しいそれらはもう何年もいれば見慣れたものになってしまって。
だけれど、思い出は色あせず。教師になった今でも変わらずに残ってるんだ。
思い出の欠片