終わりを告げる
日常に戻る
何かが違う?
何も、変わらない?
─少女語のエンディング─
〜we are...〜
ゆっくりと目を開けると、そこはいつもの日常だった。
体を起こして布団から出る。
時刻は11時。
どうやら、私は大分寝過ごしたようだ。
……って、学校は!?
「ちっ、ちっ、遅刻!!」
慌ててリビングへと降りる。
丁度お兄ちゃんが玄関から出ようと扉に手をかけていた。
今日は午後からなのか。
私の言葉に呆れたような視線を向けている。
「高校は今日創立記念日だろ。行ってきます」
「あ、え、そうだっけ……いってらっしゃい」
そうなのか。
私が仮にも行方不明になったことはやはり誰の記憶にもないのだ。
前回同様。
ということはリンクもしているのだろうか。
ジャック──俊介に電話をかけようと部屋に戻ってケータイを手に取った。
『あー、もしもし』
「もしもし!」
『んだよ』
向こう側から双葉の声が聞こえる。
あらら、デート中でしたか。
「すごいね、ワンダーランドから帰ってきて早々デート」
『うるせぇ!ってかいつの話してんだよ!』
……ん?
『2年も前の話じゃねぇの』
あ、れ。
『宮本?』
「あ、ごめん……寝ぼけてたみたい!デート邪魔してごめんね、楽しんでー」
『だからぁっ……!』
ぶつり。
通話停止。
あれ。あれ。
リンクはしていなかったらしい。
俊介は、覚えていなかった。
今回は誰も、私以外誰も覚えていなかったというのか。
「──融さん」
彼に。
彼に会えば。
“はじめさん”に会えるだろうか。
手早く着替えて足に力を込めた。
床を蹴って、リビングにいる母親に行ってきますを伝えて。
私は融さんの通う大学へと足を進めた。
秋の風が冷たく全身に凍みる。
あの世界から帰って来れて安心するべきなのに
不安と
恐怖が
私の体を風と共に襲った。
「融さん!」
「おお、歩か。どうしたんだ?」
メッセージを送ればすぐに「食堂にいる」と返事をくれた融さんの元にやってきた。
広い大学の食堂はやっぱり広い。
メニューも豊富だ。
ここの食堂は生徒以外も自由に食べられるから、私も食べて帰ろうかななんて思案する。
やはり融さんもワンダーランドなんて覚えていない。
「あ、のっ……」
彼は友人に囲まれている。
その中に“その人”はいない。
「はっ……はじっ……」
言葉が詰まる。
以前みたいに誰だと不審に思われたら?
そんなのいないと、否定されたら?
言葉を聞くのが怖くて。
聞くための一言が喉から出たくないと引きこもる。
「へんっ、変なことを、聞きますっ、けど……」
「おい融ー、何女の子泣かせてんだよー」
「俺のせいかよ!!」
あわあわと困ったような顔を融さんは浮かべる。
あぁ、ごめんなさい。
あなたが悪いんじゃないのに。
私が必死に吐き出そうとした小さな言葉は、人のざわめきでかき消されて誰にも届かない。
「あっ」
融さんが助かったといった声を漏らした。
視線は私の後ろだ。
大きな、あくびが聞こえた。
「はじめ!助けてくれ!」
「ふぁ、寝坊した……何ぃ?何したの?」
「お前あやすの得意だろ!任せたっ!」
聞きたかった名前。
聞きたかった声。
聞き慣れない、口調。
彼が。
キングが。
ナイトが。
……はじめさんが。
ここに、いる。
はじめさんは口をきゅうと結ぶ。
すぐさま、笑顔を作った。
「はじめまして」
「はじめ、まして」
あぁ、いた、いた、いた。
彼は消えやしなかったのだ。
涙は止まらない。
良かった、良かった。
「歩」
この世界で初対面のはずの彼は知り得ない私の名前を静かに呼んだ。
確かに、私の名前を呼んだ。
「なん、で……」
「忘れるはずがない」
そういって、はじめさんは微笑んで。
「俺を助けてくれてありがとう」
忘れてない。
今回はナイトと、はじめさんとリンクをしたようで。
彼は私の頭を優しく撫でた。
ワンダーランドでの“バッドエンド”も、無駄になりやしなかったのだ。
この世界では、現実世界では。
どうか、“ハッピーエンド”を。
「会いたかったよ。
俺の愛おしいアリス」
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