これは夢でしょう?
そんな希望は
あっという間に消え去った
―Is this a dream?―
〜夢ノ世界デ〜
またまた歩くこと数10分。
大きくそびえ立つ城が目の前にあります。
「……ハートの城」
ここか。
ド派手な城だなぁ……全体的にピンクだ。
突然、槍のようなものを向けられた。
「何者だ!!」
前に立っているのは、胴体がトランプの兵士達。
……おぉ、トランプ兵だ。
リアルトランプ兵だ……夢だけど。
「えぇと……」
言葉につまっていると、トランプ兵の後ろからカツカツと靴の音が聞こえてきた。
ふわりと舞う長い髪の毛に、派手で真っ赤なドレス。
「なにをやっておる、トランプ」
凛とした声が耳へと響く。
……あぁ、この人が、
「クイーン……」
「「女王様!?」」
トランプ兵は慌てたようにクイーンへ向き直る。
「おぉ、アリス。さぁ、わらわの近くへおいで」
ニコリと微笑むクイーン。
……いい人そうだ。
「こんにちは、クイーン」
「アリス。一目会っておきたかった、あぁ、可愛らし」
近付こうとした時、クイーンは「おぉ」と思いついたように言った。
「忘れていたわ」
そういって白ウサギがトランプを出した時と同じように、何もないところから剣を出す。
「え……」
刹那。
大きな音をたてて、
ビチャリという頬に何かがついた音。
ゴトリという鈍い音。
足下に……2つの首。
さっき、槍を向けてきたトランプ兵達の首だ。
クイーンが横に剣を振り、トランプ兵達の首を切り落とした。
「……ッ!!」
頬に飛んできた血を手のひらで拭う。
それは、生暖かくて。
それは、この世界が、私のいるこの場所が。
夢なんかじゃないって知るには十分すぎるもので……
「アリス、無礼な物達は斬首した。安心するが良い」
ニコニコと笑うクイーンが怖く思えた。
「アリス?どうした、わらわの近くへおいで」
少し経てば、トランプ兵の首と胴体は優しい光に包まれ消えた……血だけを残して。
「トランプ兵が減ったことを気にしているのか?大丈夫、トランプ兵など腐るほどおる」
そんなことじゃない……
目の前で、人が死んだ……
体はトランプだとしても、しっかりと、顔があるわけで。
それは、人の形をしていたわけで……
血が、コレは現実なんだと、語りかけてくる。
……夢じゃない。
それでも、この世界を受け止めて、生活しなければならない。
……いや、出口を見つける、とか言ってたっけ。
この世界のどこかにある出口を見つけて現実世界へ戻らないといけないんだ……
「アリス?」
クイーンの言葉も耳に届かずに、私は無我夢中に走り出した。
気持ち悪い。
気持ち悪い……!
あれで平然としているクイーンがありえない。
前も見ずに走っていたからか。
ドンッ、と前に鈍い衝撃が走った。
私は後ろに尻餅をつく。
木にぶつかった……?
いや、木にしては柔らかい感じ……?
「悪ィ……大丈夫か?」
目を開けると、そこにはジョーカーではない青年が立っていた。
「……だいじょ、ぶ」
緑色のマフラーを巻いた青年がさしだした手を掴み、よろよろと立ち上がる。
「顔色、悪ぃけど……どうしたんだ、あんた」
心配そうに顔を覗き込んでくる。
「気にしないで……ありがとう」
「……」
私が走ってきた方向を見て、青年は顔をしかめる。
「クイーン、か……」
納得したような声で、私の方へ視線を戻す。
「医者まで行くか?」
「大丈夫。本当ありがとう、えっと……」
「あぁ、名乗っていなかったな。俺はジャック」
ジャック。
カードにあった、スペードのJ。
恐らく、この人。
こんなに簡単に会えてしまっていいのだろうか。
この調子じゃ、Aともすぐ会えるんじゃないか。
「ありがとう、ジャック」
「おめぇ、名前は?」
少し乱暴な言葉に、顔を上げて答える。
「アリス」
その名前を聞いて、ジャックの瞳が大きく揺れた。
「……アリ、ス?」
「?そう、アリスよ」
「11番目の、アリス……」
11番目……
10人も、アリスがいるんだ。
「ねぇ、今までのアリス、って何処にいるの?」
「……死んだ。だから、あんたはここにアリスとしているんだろ?」
アリスは1人で十分だ。
そう言ったジャックは凄く悲しそうだった。
「……そっか」
死ねば負け。そう白ウサギは言っていた。
……今までのアリスは、負けてしまったんだ。
ジャックは私に背を向けて歩き出した。
「街まで案内するからよ……ついてこい」
「いいの?」
「……アリスを守る。それが俺に与えられた役だ」
私は、ゆっくりと歩くジャックの背中を追いかける。
しばらく歩くと、にぎわう人々の声が聞こえる。
「わぁっ!」
人や市場がたくさんある。
明るい、街。
「何か食うか?」
「お腹すいてないから大丈夫」
私は思い出したように呟いた。
「あ、何処に住めばいいんだろう」
住む場所とか、必要だよね。
「あ?あぁ、俺んとこくるか?」
え、いいの?
考えていたことがわかったのか、ジャックは言葉を続けた。
「空き部屋がある。役上、おめぇの近くにいた方がらくだからな」
“アリスを守る”
それが与えられた役だという。
じゃあ、あとの“ジョーカー”と“ダイヤのA”も同じなのだろうか。
「ありがとう、ジャック」
「問題ねぇ。何かあれば、俺を頼ればいい」
「あ……じゃあ、ついでに聞いてもいいかな?」
「?」
ついでだし、わからないとやっていけないし。
「“ゲーム”ってなんなの?」
「……クイーンに説明されなかったのか?」
逃げました、なんていえない。
「逃げたんだろ」
あ、ばれた。
「……はい」
ジャックは呆れたような顔をして私の手をひいた。
「家、ついでに案内する。そこで話そうぜ」
そういってほんの少し先に、小さな家があった。
中に入ってみると、ほとんど物はなくて。
ジャックに聞いてみると「どうせ家なんてあってないようなもんだからな」と言われた。
この世界の人達は転々と移動するらしい。
それじゃ、物あっても意味ないか……
ジャックは飲み物を出して、椅子に腰掛ける。
テーブルを挟んで向かい側にある椅子を指さす。
座れ、ということだ。私は静かに座った。
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