白い世界に


輝くような
けれど、今にも消えてしまいそうな


そんな人が
笑っていた




─最後の歌─
〜goodbye,your melody〜











歌が聞こえた。



綺麗で、誰もが魅了されてしまいそうな歌だ。




白い世界。
夢の世界。



黒いワンピースを纏った私には到底似合わない場所だ。

そんな場所に私はいた。



ここも懐かしいな。



今日は誰が出るんだか。





歌っていた女性は私の少し先に立っていたらしい。
私に気がついて、振り向く。




ナイトのように黒に近いアッシュではなく、輝くような銀髪。




「あら、あなたがアリスかしら」





優しげな雰囲気も持ちつつ、堂々とした態度のその女性は、どこかで見たことがあって。


最後。
そうだ、最後に私は彼女を見た。


殺されたところを、見たのだ。





クイーン。


白ウサギとエニグマの言う「クイーン」が彼女であることは、何となくわかった。



歌うことをやめた銀髪の女性は私を見てにこりと笑った。




「会いたかったのよ、あなたに」




私に?


首を傾げる私を見てまた綺麗にクイーンは笑う。



白ウサギに勝ったあなたに。



そんなクイーンの言葉に私は溜め息をついた。





勝ち負けの基準が何なのかわからない。

生き残りゲームには勝った。
けれど、大切な人を救えなかった私は完全勝利とは言えないのではないか?




「ごめんなさいね」




クイーンはすべて笑顔で表現する。

優しく、明るく。


今は、困ったように。




白い空間にいるクイーンは、今にも消えてしまいそうに見えた。



死んだ人が出てくることは、今更突っ込むこもでもないのだろう。





「白ウサギが迷惑をかけてしまっているわ」


「わかっているなら、何とかしてくれますか?」



白ウサギがクイーン大好きなら、やめるよう言ってくれたらこんな世界終わりなんだけど。


クイーンは切なそうに笑う。



「私は何もできないわ。これも、魂の残骸だから」



消えてしまうの。
そう言って俯いた。



これが、最期だということなのだろうか。

これで本当に、彼女は消滅してしまうらしい。




それならば白ウサギなりエニグマなりの所に行けばいいものを。


「あなたに、お願いをしにきたの」




す、と顔を上げたクイーンは穏やかそうに見えて、視線が鋭い。

それは確かに白ウサギやエニグマを創った人間だった。




「白ウサギの望むようにしてあげてほしいのよ」

顔を思わずしかめる。



つまり、私たちがここに居続けなければいけないのか?

少女……白ウサギが「クイーンはもういない」と理解するまで、ずっと。



……下手にバッドエンドに進むよりは、いいのかもしれないけれど。

いやいやいや、良くない。
そんなの逃げてるだけじゃないか。


どんな結末になろうとも、進まなきゃ駄目だ。

ここに居続けるエンディングなんて、一番気が狂っている。

例えナイトと共に生き残る唯一の結末だとしても、だ。





「白ウサギのためにも、あなたがいないことを、もう戻らないことを理解させるべきじゃないの?」



そうだ、少女が一番逃げている。

どこかではわかってるんじゃないの。




「あの子には悲しんでほしくないから」

「そんな言い分が通るなら、私はあなたのお願いを聞けない。私だって、ナイトには悲しんでほしくないから」



中途半端に記憶を取り戻すなんて希望を持たせただけで終わるなんて駄目だ。

ちゃんと取り戻して、あげなきゃ。



希望を持たせて願い叶わずなんて、悲しむに決まっているだろう。

白ウサギの望むとおりだなんて、ずっとこのままでいるなんてできない。




「……アリスに彼は救えないわ」


優しく笑いながら吐き出すクイーンは、残酷で。



いい人だと思っていたのに、ワンダーランドの住人はどうも性格が悪いらしい。




「あなたが下手に動いてしまえば、彼は私と同じ末路を辿る」

「何を根拠に。絶対にそんな風にさせないから」

「そう、頑張って」


応援の言葉の裏は、嘲笑。
どうせできないのに。そう言われているようで腹が立った。




……あぁ、そろそろ時間ね。
クイーンが笑いながらそう言って、ゆっくりと背を向けた。



「私は最後まで見守ることはできないけれど、応援しているわ」


彼女の透明感は増す。
フェードアウト、していく。



「……無駄なのはわかっているけれど、個人的にはハッピーエンドを迎えてほしい、なんて」



寂しそうに笑って、最後にそう言って彼女は消えた。


私たちの不幸を望んでいるわけではないらしいけれど。
いい人なのか悪い人なのかよくわからないわ。



誰もが幸せになれる結末なんてない。





彼女が望むのは誰のハッピーエンドなのか。





なんだか、苦しいね。


白い世界で、ひざをついて俯いた。



白ウサギは笑うだけ。
エニグマだって手を伸ばしてくれはするけれど助けてはくれない。

他の住人たちは別の存在であるといいはって。
ナイトには一切記憶がない。



ひとりぼっちみたいだ。

救おうと躍起になって、救ってくれる人がいないことに今更気がついた。


救って欲しい訳じゃないけど。

安心させてくれる存在がいないのは、どこか心細かった。



前回はいたから、かな。



ジョーカー、エース

……ジャック。





白い世界が段々黒ずんでいく。

あぁ、目が覚めるのか。




意識が移ったときに、誰かに肩を掴まれていることに気がついた。



誰だ、人が寝ている時に。



「……い、おいっ!」



私のことを揺さぶるその人の声は、聞き覚えのある声で。


ゆっくり目を開くと、映ったのは黒髪。
ラフな私服。

……緑色の、マフラー。



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