……


何もない真っ暗闇に



たったひとりで誰もいない





何もわからない



自分が誰なのかさえ





わからない






―其ノ物語ハ終ワラナイ―














「……う」



何も見えない。

何も感じない。

何も聞こえない。






そんな不思議な空間で銀髪の青年は目を覚ました。




「こ、こは……?」

どこだ。



青年は瞬きを繰り返す。






景色は変わることはなかった。





「……どこだ?」




何もない、変哲な空間。




真っ暗な世界。



――自分の目がいかれているのか?



青年は自分自身の体を見た。



見える。

目がおかしいわけではない。





「……」





自分が誰なのか、思い出せない。


なんでこんな所にいて。
自分がどんな人間であるのか。






くすくすと、笑い声が空間に響く。



ぼうっと現れたのは、白い髪色の少女。



青年はその少女をじっと見た。




これは、誰だ?





「ねぇ」



少女は青年に向けて話しかける。




「君は可哀想な子だね」

「可哀想?」

「置いていかれたじゃない、オトモダチに」




オトモダチ?


誰のことだ?

青年は自分のことを覚えていないからか、周りのことも思い出せない。




頭を抱えて青年は唸る。





白い少女は青年の揺れる銀髪を見てくすりと笑う。





「僕もね、可哀想な子なんだ」



少女は青年に近付いて、彼の頬を両手で包み込む。





「君を、王様にしてあげる」

「……王様?」

「そう、新しい世界の王様。統治者がいないと始まらないもの」






少女は弧を描いて笑った。


可愛らしい笑顔が、恐ろしい印象を与えるくらい、不気味に。




「たくさん人のいる、楽しい世界を創ろう?私の大好きなクイーンを迎え入れられるくらいに」



楽しい世界。

創る。

クイーン。




青年はついていけないまま少女の言葉を聞き流す。




――自分はそこの「王様」になればいいのか?







なってどうするのかはわからない。


青年はどこもからっぽで、何も考えたくなかった。




「……白ウサギ」


「エニグマ……まだ、生きていたんだね?」





赤髪の女性が現れた。

青年ほどではないが背が高い。



十字架の描かれた瞳を呆れたように細める。




少女は「白ウサギ」

赤髪は「エニグマ」

そう呼ばれているようだと青年は理解した。






「あんたもあたしも同じだろ。あたしたちは消えられない、ただ存在していることしかできない」

その言葉に白ウサギはふんと笑う。
知っている。と言わんばかりに。




「もうクイーンは戻ってこないさ。彼女の魂は、消えてしまってるんだから」




エニグマの言葉に、ピクリと白ウサギが反応した。


大きな丸い目を吊り上げて、鬼のような形相へと変わった。




「うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!!
彼女は僕の傍に戻ってきてくれるんだ!戻ってくるんだ!!!」



狂ったように、高く笑う少女。


「僕の元に戻ってきてよ!クイーン!!早く、早く!!一緒に遊ぼう!!」





そういって、白ウサギは青年の方を見た。

笑うことをやめて、赤い目を細める。





「だからね、そう。まずは世界の原型を作って、余所の世界から“アリス”を連れてくるの。きっとクイーンは余所者に喜ぶよ!」



くすくす笑う。


エニグマはきつく白ウサギを睨んでいた。




「また、繰り返すつもり?」

「いいや?そんなつもりはない。今回はちゃんとアリスを選ぶから」

「どうなるかなんてわからないさぁ」






白ウサギはエニグマの言葉を無視して青年を見た。



「早く世界を創ろうよ、大切な彼を迎え入れてもいいの!そしてアリスを迎え入れよう……貴方ノ愛オシイ彼女ヲ迎エマショウヨ」




銀髪が、ピクリと揺れる。



それをみて白ウサギは満足げに青年を見て「また来るね」と笑った。






白ウサギが消えて、エニグマが青年を見下ろす。




「……君は後悔する。彼女を呼ぼうとしていることを、後悔することになるさ」





「俺は、僕は、私……は」





青年は自分の人称すらわからない。



おかしくなりそうなくらい、笑ってしまいそうなくらい。
何もわからない。




――だから“大切な彼も”……“愛おしい彼女”もわからない。




そのはずなのに。

わからないはずなのに。





それでも。




「――アイタイ」




青年の言葉にエニグマは静かに反応した。





「彼に、彼女に、あいつに、あの子に……“あの人”に。

……私は、会いたい」






何もわからないはずなのに。




ずっと傍にいたような、世話のかかる誰かに。



そして、愛してしまった……“彼女”に。








会いたいと、思ってしまった。





























笑って過ごせると信じてる。

…だけど、




またどこかから呼ばれてしまうような恐怖が私を毎日襲うのだ。




馬鹿らしい一抹の不安が、拭いきれないままでいる。








―――大切な彼が呼んでいるよ。

楽しい仲間がみぃんな呼んでいるよ。


ほらほら、時間がないよ、一緒に行こう。



楽しい楽しい不思議の国へ!








「さぁ、アリス。ゲームを始めましょう?」





Alice Game
END...?


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