さぁさぁお仕事を始めよう




大切なクイーンのために



クイーンの大切なキングのために






いらないものを、処分しよう





―双子の処刑人―
〜Executioner twins〜







「ほーらほらほら!言ったじゃあんディー!王様ここにいたっしょ!ダムちゃんの言う通りー!」

「ダム、わかったよ、俺の負け。さっさと仕事だろ」



それぞれの武器を構えたまま楽しそうに騒いでいる。





邪魔だったのか、2人共フードを脱ぐ。

顔が見えた。
……2人共少年少女、幼い顔だ。


双子なのか、顔がよく似ている。







「お前ら、か」




キングが青ざめた顔のまま2人をにらみつけた。


「やっほーやっほーキング!私と一緒に帰ろうー!」




ダム、と呼ばれていた少女が軽やかに手を振る。



それを見てディーと呼ばれた少年はまた溜め息をついた。






「何をしに来た、処刑人が」







……処刑人!?こんなに幼いのに!?


つまり、お仕事って。



誰かの処刑。






「やだなぁ、キング、あなた聞き耳をたてていたじゃないか、俺とダムとクイーンの会話」

「ならわかってるよね?」


「「僕らはそこのトランプ兵を処分しに来ただけだよ」」







「……トランプ兵?」



ジャックが不思議そうに、しかめた面をしたまま呟いた。



私はゆっくりとナイトを見る。





彼は冷静を保ったまま警戒を解かない。


むしろ冷静じゃないのは、キングの方だ。




キングは2人を睨み付けながら叫び散らしている。




「理由を言え!俺は認めないっ!!」






キングの言葉に2人がくすくすと笑い始めた。






「邪魔なんだって」
「キングが傍からいなくなって寂しくて」
「それはそのトランプ兵のせいで」
「だからさ、」
「「クイーンはそいつを処分したいんだ」」



大きな目を細めて妖しげに笑った。



ダムはつまらなそうにあくびをした後、鎌を上に振り上げた。






「はいはーい!ダムちゃんいっきまーす!」






重たそうな鎌を手に身軽に走り出した。

素早くナイトに鎌を振り落す。




ナイトは太刀でそれを受け流した。





ダムはナイトから距離を取った。





「……命令通り俺たちがナイトを処分して」
「ついでにアリスを殺しちゃえば」
「「急に現れた僕らが大活躍!って不思議な展開になるよねー」」




距離があるのに双子の息はピッタリだ。



急にダムが、方向転換をして私の元へ走ってきた。





「いただきっ!」



私に振られた鎌はジャックの蹴りによって逸れた。


私の横の地面に鎌が刺さる。





「時間がねぇんだ、どけよ餓鬼共!」


「うっ……うわぁぁあん怖いよぉ!こいつ怒鳴ったぁぁあー!」

「……はっ?」




ジャックの言葉にダムが泣き出す。

ジャックは突然のことに戸惑っている。






ダムの後ろから、銃声が響いた。



それをぎりぎりでかわしてそちらの方向に目を向けた。




「……おしい」

「はー?油断させたんだからちゃんと仕留めてよねー!」


……嘘泣きか。





ダムはまたナイトのほうへ走り鎌を振るう。



「ディーはアリスをお願いねー!」




鎌を振るいながらも余裕そうに叫んだ。



「んー、じゃあ、お姉さんよろしくね」


「……」


何がよろしくだ。



捕食者と獲物状態じゃないか。



ディーは2丁の拳銃を手放した。

……あっさりと武器を捨てた?




ぽん、と触ったのは肩からかけられたマシンガン。





「質問です、お兄さんお姉さん。俺のこれ、1秒に何発撃てるでしょう?」



「……50発、とか?」



速いやつでも1秒だったら限られてくるだろう。



ディーはにこりと笑って構えた。






「正解は、」


銃口が私たちに向けられる。





「1万!」





ありえない音。
ありえない勢いで。

銃口から私たちに向かって銃弾が飛んでくる。




思わず伏せてそれをかわす。

……ジャックに頭押さえつけられて倒れたといったほうが正しいかもしれない。





銃声はすぐに止む。

銃口からは煙が吹き出していた。




「……問題点は弾の消費がありえないくらい早いことなんだよねー」




弾切れということでしょうか?


これは、チャンスなんじゃないかな。
拳銃は捨てていたし、マシンガンは使えない。




「あ、やっべ」




ディーが手を広げて舌を出した。


やっぱり持ってないのか。





エースが鞘から刀を抜いてほくそ笑んだ。




「俺が仕留めてやる!」







素早くディーへと近付いた。




「お気に入りの銃捨てちゃった」



ディーの手にあるのは、2丁の銃。




少し長めの銃で日本刀を受ける。




そのまま弾いて、エースに向けて銃を撃った。

それはエースの頬を掠める。



「……っうわ!……どっから出したんだよっ」







ディーが動く。

ローブが大きく揺れて内面が見えた。





そこには、ありえないほどの銃の数がストックされていた。




……ああいうの初めて見た!

というかフィクションでしょ!
あれ、リアルの世界じゃないからフィクションなのか?





ちら、とナイトの方を見るとナイトはただ技を受けるだけで攻撃ができていなかった。



歳とか関係ない、処刑人と名乗るだけはあるのか。






ディーはひたすら的確に、私たちを狙って撃ってくる。


銃弾がなくなったら装填するのではなく新しい銃にシフトする。

おかげで隙が少ない。





「あはははははっ!」


楽しそうに、笑って。
ディーは銃を撃ち身軽にみんなの攻撃をかわす。



「っ、の……!」


綺麗に飛んでいったジャックのナイフに、楽しそうな残酷な笑みを浮かべるディーは首を傾けてかわした。





その時だった。








ぱぁんと1発の銃声が響いて、時が止まった感覚に陥る。



ぴたり、と止まったディーが口から血を吐いて倒れた。



……何が起きた?






すたん、とお兄ちゃんが木から降りてきた。


手に銃を持ったまま。





記憶が戻っても身体能力は変わっていないようだ。




お兄ちゃんが撃った。




的確に、頭に1発。

たった1発で、人が死んだ。





少年が、命を失った。







森が静寂に包まれる。




ダムの動きがピタリと止まる。






「……………………
ディー?」





ぽつりと。
静かに呟かれた。






少女は絶望に沈んだ顔で片割れの元へと走り出した。




「ディー!?ねぇ、起きて、起きてよ!
何何何何なんなの!?」




少年のローブを引っ張って泣く。


ぼたぼたと涙がローブに落ちていった。



「うあ……うわぁぁあああぁぁあ……」





力強く、少女は少年のローブを引っ張った。




「……さない」



少女の、ダムの瞳が赤く光る。


どこかのウサギさんを思い出し、奇妙な感覚に襲われた。





ディーは何もなかったかのように消え去った。







「許さない……許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」







ダムは我を失ったようにその言葉を繰り返し続け、ディーのローブをひったくった。


そこにあるたくさんの銃を手に取り、狂ったように連射した。





銃には慣れていないのか気が狂ったのか、狙いが定まっていない。


バラバラで、どこに銃弾が飛んでいくのか予測がつかない。
……逆に厄介じゃないか。







「許さない許さない許さないあっはははははははあはははは!!!」



「……っ」




1つの銃弾がナイトの腹を貫く。




当たり所が悪かったのか大量の血が流れ出した。








ナイトを心配し、キングが駆け寄る。



離れていたから当たらなかった銃弾。





それが、キングの腕に傷をつけた。






「っ、キング!」



困ったようにナイトが叫んだ。





それに、ダムが反応し再びぴたりと行動が止む。



キングの傷を見て青ざめる。





「……あ」



銃を地面に落としてがたがたと震えだした。







「ごめ……っ、ごめんなさっ……!許して、許してください」



何かに怯えるように、ダムが震える。

身を縮こまらせて許しを乞うていた。



誰も攻撃する気には、なれるはずがなかった。






「うわぁぁぁあああやだやだやだやだやだよぉぉぉぉぉおおお!!」







ぱちん。


誰かが指を鳴らす。








瞬間、ダムが爆弾のように破裂した。




周りに血と肉片を飛ばして、存在を失った。






私たちが呆気にとられているうちに、飛び散ったダムもディーと同様消えた。





お兄ちゃんが反射的に口元を押さえる。


私も気持ち悪くなって、口元を押さえた。





……吐いちゃ駄目。





“見えてないふりをする?聞こえないふりをする?何度も何度も吐き出して、気持ち悪いと軽蔑してさぁ。”





吐いちゃ駄目なんだ。


そんな資格、私は持ってない。





ぱちん。

再び指が鳴った。








私たち全員、急に森の中から建物の中へと移動したようだ。

……瞬間移動!?




こつり、靴の音が鳴る。





「やはり、子供に任せたのが間違いであった」



堂々とした声は、懐かしい。





「……クイーン」

「おお、アリス。久しぶりじゃな」



ここは、ハートの城か。




私たちがここに来たのはクイーンの力か。





……というかこんな力使えるなら機嫌悪くして天気悪化させる前にキングを城に連れ戻せるじゃないか。


今更そんなこと言ったって意味ないけどさ。






「わらわの大切なキングに傷をつけおった。おお、おぞましい」







クイーンはゆっくりとこちらに歩いてきた。





お腹を押さえているナイトを容赦なく蹴り飛ばして後ろにいたキングに触れる。




「キング、申し訳ない。これはわらわの失態じゃ」

「……ナイトに何をする」




キングの言葉にむっとした表情を作って再びナイトを蹴った。




「……ふん!」



機嫌を損ねたクイーンは倒れているナイトの髪を引っ張って持ち上げた。






「みなご苦労じゃ」




くすりと、笑った。








「――もう、終わり」



クイーンの雰囲気が、変わった気がした。







「もう役目は終わりなのよ、アリス!!」





どこか違った口調の、
しかしいつもと同じ凛とした声。






クイーンの声は薄暗い部屋に凛と響いた。


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