ようやく会えた。
まだ、存在していた。
ジョーカーとはずっと一緒にいたのに。
泣きそうになって、嬉しくなって。
思い切り抱き付いた。
「お兄ちゃん、良かった……本当に、良かった……っ」
「アリス」
お兄ちゃんは私を抱きしめ返す。
ぬくもりは、あたたかい。
「……歩、ありがとう」
お兄ちゃんは、ここにいる。
ちゃんといる。
「俺を救ってくれて、ありがとう……っ」
泣いている。
ジョーカーは泣かなかった、泣きそうな表情は見せても、泣くことはなかったから。
なんだか不思議な感じがする。
やっぱり、自分の名前は大切なんだって、思う。
だから、早く。
みんなの名前も取り返さなくてはならない。
それと、気が付いたことがある。
「……エース」
「なぁーに」
「前、60年70年ここで暮らしてるリアルの人間いるって言ってたよね」
「うん、昔に聞いた話で誰のことか忘れたけどね!」
それってさ。
「お兄ちゃんのことでしょ」
お兄ちゃんを見てそういうと、彼は首を縦に振った。
やっぱり。
そんなに長いってことは、最初の方に失踪した人間だという憶測は当たった。
「……俺がこっちにきてたぶん……60年」
いなくなったのは、5年前。
双葉だっていなくなったのは1か月くらい前だったのに、1年以上前に死んだと言っていた。
そう、単純に考えると。
「わかったよ。こっちの1年が、リアルの1か月なんだ」
……今更そんなことがわかっても意味がないかもしれないけれど。
私がこちらにきて大体半年。
リアルでは15日くらいしか、経っていないんだ。
「……まじかよ」
ジャックが驚いた顔をして私を見た。
「すっげぇ長くこっちにいる気がしても、あっちじゃ大した期間じゃ、ねぇのか……」
まぁそれでも60年はすごいと思うけどね!
大分謎が解けてきたじゃん。
これはいい流れ、と言い聞かせる。
帰れるかも、しれない。
扉なんて見つけてないけれど。
探してないところと言えば……
ハートの城だ。
「――行こう」
エースが笑う。
私を見て、明るく笑った。
「目指すはハートの城っ!だね?」
その言葉に反応したのは、ただ1人。
「はっ、ハートの、城?」
キングだ。
彼1人だけ嫌そうに口を開いた。
「2人も行こう。それで、リアルに帰ろう」
クイーンを嫌がっている場合じゃない。
期限はもうない。
こんな世界。
早く、脱出しようよ。
「俺は……」
キングがもごもごと口を動かす。
なんでそんなに躊躇っているの?
……まさか、この世界に留まりたいの?
「この世界に、いたいの?」
「違うっ!帰りたいけど……でも」
帰りたいけど、城には行きたくない。
……子供か。
「クイーンに会いたくないかもしれないけどさ」
「そういうんじゃ、ないんだよ」
じゃあ、どういうの?
キングの顔は青ざめていて、酷く不安そうだ。
クイーンに会いたくないとか、そういうことじゃないのは本当らしい。
……じゃあ、何があるの?
ナイトがキングの手を引いて、キングに向かって笑って見せた。
「大丈夫ですよ、私が貴方を守ります」
さすが従者だ。
だけどその言葉でもキングは表情を変えなかった。
寧ろ悪化した。
「大丈夫じゃないんだよ!お前がいるから!大丈夫じゃない!」
目をまんまるにする。私も、ナイトも。
何今の言葉。
……ナイトを拒絶したの?
ナイトは、ゆっくりとキングの手を離した。
その場に立ちすくんで、顔を下に向ける。
「……すみません。出過ぎたことを言いましたね」
「そうじゃないっ!……お前は行くな!お前が行くつもりなら、俺は行かない……そうすればお前も行かないんだろ、従者なんだから!」
キングが何を言いたいのかわからないけど。
キングが行きたくないんじゃなくて。
……ナイトを、城に行かせたくないように聞こえてくる。
ナイトは首を傾ける。
私も首を傾けたいよ。
エースが呆れたように、苛立ったように言葉を吐き出した。
「おーさまさぁ、駄々こねるのもいい加減にしなよ!アリスには時間がないんだ、俺らだって、ここまで来れたのは初めてで……帰る、チャンスなんだよ!」
ジャックも言葉には出さないけれど腕を組んで溜め息を吐いた。
お兄ちゃんは、無言でキングを眺めている。
キングは嫌そうな顔をして口を開き、小さく言葉を紡いでいく。
「……クイーンの話を聞いてしまったんだよ」
……話?
「処分、するって」
何を。
流れからしたら、もしかして……
言葉を出そうとした瞬間、銃声が響いた。
それはナイトに向かって行ったようで、彼は反射的に太刀でそれを弾いた。
「ふふ……あははははは!だっさい!弾かれた!」
「……うっさい」
現れたのは死神のような黒いローブを羽織った2人。
身長はおそらく私よりも小さい。
1人は大きな鎌を背負っていて本当に死神のようだ。
もう1人は2丁の銃に……肩にかけているのは、何だろう……マシンガン、のようなもの。
赤くネイルが塗られた指で私を鎌の方が指さした。
「ラッキー!アリスもいる!超ラッキー!」
「だからさぁ……うっさいんだって」
鎌の方は……可愛らしい声からして女の子だろうか。
銃の方は、少年のような声。
「じゃ、いこっか」
「そうだね」
2人はそれぞれの得物を構えて、笑う。
「「お仕事開始しまーす」」
[*前] | [次#]
[しおりを挟む]
戻る