突っ走りすぎたら失うよ



失ってから気が付いたって



遅いんだって気付いてあげて



運命とか奇跡とか



馬鹿らしいことを願ってないでさ


――ねぇ、アリス





―猫の戯れ―
〜My card number〜












「チェシャに会いに来てくれたの?嬉しいなぁ、嬉しい!にこにこ」



エースが起きてから、私たちは向かった。


それは、チェシャ猫の元。





チェシャ猫は木の上でぴょんぴょんと楽しそうに跳ねている。





「アリス、アリス!遊ぼう、遊ぼう、うきうきわくわく」

「うん、そう。遊びに来たの」





チェシャ猫は、謎々を解けば質問に答えてくれる。


名前は答えられない。



けど、私の聞きたいことなら、答えることはできるかもしれない。



その希望にかけるんだ。







「じゃあね、じゃあ謎々、謎々!解けるかな?にゃあ。

突き抜くものなんだけど、突き抜けるとなくなっちゃうものはなぁんだ?」



……でも、私苦手なんだよね、謎々。





「……今更何を聞くんだよ」

「それは置いといて、謎々解ける?」

「わけわかんねぇ」

「俺もわかんなーい」




使えない。

……人のこと言えないけどさ!




チェシャ猫は首を傾げて楽しそうに手を動かす。




「速いものだよ、びゅんびゅん」




速いもの?

……飛行機。


なくなっちゃうものがなんだか意味不明だけど。

そもそも突き抜けないか。





頭を悩ませる、馬鹿3人と言ったところだろうか。


救世主が現れてくれないだろうか。






「……あのー、謎々中悪いんですけどキング見ませんでした?」


来た、来ました。



私の救世主。





「助けてナイト!」

「はい?何ですか?」



優しくナイトは笑う。



ううん、優しい。



エースが大きく舌打ちをした。
「かっこつけ」とか言いながら。


……ポイズンにはならないでちょうだいね?






「謎々が解けないの!」




「にゃあ!お馬鹿なアリス、アリスはお馬鹿!」

「チェシャ猫ちょっと降りておいで?」




今のは許さない。


チェシャ猫は降りないと笑う。

けらけら笑っている金髪猫。




「ナイトさんなら解けるかな?にゃあ。

突き抜くものなんだけど、突き抜けるとなくなっちゃうものはなぁーんだ?」




木の枝に座り込んで、楽しそうに足を振る。


暇なのか、時折足を使ってぶら下がったりしていた。




「速いもの、なんだって」






あ、そうか。

今思いついた。

私冴えてるんじゃないかな。




「銃だ!銃弾!」

「ぶっぶー。理論が通らないよ、アリス。ぷんぷん」

「えーなくなるじゃん!」

「謎々じゃない、それは謎々にならないよ、にゃあ」



いい回答だと思ったんだけどな。






「アリス、ありがとうございます」

「え」


今ので答えがわかったと、ナイトが言う。





「これで間違えたら恥ずかしいよねーぷぷー」

「エース、おめぇは答えが思いついてから人を馬鹿にしやがれ」





わかったの?

銃でわかったの?






ナイトが笑ってチェシャ猫を見る。








「答えは『矢』です。さて、アリスの質問に答えてあげてください」






……矢?

あぁ、漢字か!




「矢」は突き抜けると、「失」、失うになるんだ。




「ぴんぽんぴんぽーん。ナイトさんが答えたのにアリスの質問に答えるの?にゃあ」

「えぇお願いします」

「じゃあ優しい優しいナイトさんに免じて、チェシャはナイトさんの質問にも答えてあげる。くすくす。
キングさんは、この木の下にいるよ、にこにこ」




がさり。

動揺したのか木の下の草が揺れる。





「キング?何をやってらしたんですか?」



ナイトが近付いていって、キングを引きずりだした。


現れた草まみれのキング。






「ににに逃げてたわけじゃないぞ!クイーンがまた俺に美味しくない紅茶をおしつけて……!」


逃げてんじゃん。





ジャックが呆れたように溜め息をついた。




「んで、おめぇの質問はなんだよアリス」





あぁ、そうだった。

チェシャ猫を見ると可愛らしく笑った。





「私のお兄ちゃんを教えてほしいの」


「チェシャにそれはわからないよ、しょぼん」





そっか。
言い方を間違った。






「質問を変えるね。私の役を、教えてほしい。

私のお兄ちゃんは、私の対になるカードだって」


「うん、うん。それならわかるよ!にゃあ」




エースが真ん丸の瞳で私を見た。





「そうなの?」

「そうらしいの」



わかる。

お兄ちゃんがわかる。











「アリスの対になるカードの人間なら、ここにいるよ、くすくす」











ここにいる。

お兄ちゃん、生きててよかった。


……じゃなくて。





「ここ……?」

「そう、ここ!にやにや」



ば、と手を広げる。






ここにいる誰かが、お兄ちゃん。


名前を呼べば、わかるのだろうか。





「願望的にはナイトとかだと嬉しいんだけど」




絶対違うよね。

髪色とか全然違うし。



……その発想で行くと、エースも違うか。



髪色で考えると、ジャックか、キング。






「……キングがお兄ちゃんはいやだわ」

「アリス俺に冷たくないか?」





というか、チェシャ猫。

教えてよ。





チェシャ猫は馬鹿にしたような目でくすくす笑う。


「教えてあげようか、教えてほしい?にこにこ」

「うん、すごく」





「チェシャの上にいる人。にゃあ」


上……?






チェシャ猫はどこから出したんだという力で自分の乗っている木を揺らした。



葉っぱが騒めく。





バランスを崩したように落ちてきた人が何とか足で着地する。






「アリス、君の役は……ジョーカーだよ。くすくす」





「ジョーカー……?」

「……」




ジョーカーは落ち着いた様子に見える。
……けど、驚いているようだ。




「アリス、アリス気を付けてね」


「え?」



「突っ走ると、大切なものを『失』っちゃうからね?くすくす」







チェシャ猫は綺麗な金髪を揺らした。

ちりん。
鈴の音が小さく聞こえる。




「ジョーカーが……」

「俺、が」




私の、宮本歩の

――お兄ちゃん。






混乱している。

私もジョーカーも。



嘘、こんなに身近にいたなんて。


会ったこともないようなリアルの人間かと思っていた。





5年でこんなに変わっているなんて。

誰がわかるか、わかるはずがないじゃないか。



と、いうか。
記憶は取り戻していないのか。







「……っアリス」




ジョーカーが上擦った声で私を呼ぶ。




目尻は下がっていて、いつもと違う。


あぁ、そうか。






記憶はまだ戻ってない。



「……俺の、」






名前を。




返してあげなくちゃ。







「俺の、名前は……」



貴方の名前を返してあげる。



“記憶を取り戻して……それが最悪の結末だったら、怖いよ”





ほら、大丈夫。

最悪な結末なんてありえないでしょう?





待っている人がいる。

貴方を思っている人が、ちゃんとたくさんいるから。






だから、一緒に



「あなたの名前は『宮本光輝』だよ……お兄ちゃんっ」



この狂った世界から、おさらばしよう。




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