さぁさ



始めようか



狩りを



「……ほらほら、アズミ?食事の、時間だよ」








―狂気の食事会―
〜Little killer〜

















「行くだけ無駄だと思うんだけど」




エースが不満げに私の前を歩きながら呟いた。


「あの人、知らないって言ってたじゃん」





顔には、会いたくない、なんて書いてある。


……嫌い、なんだなぁ……





それでも、万が一ってこともあるし。


新しい情報見つけてくれたかもしれないしね。






帽子屋さんがいるところまでの道のりを期待に胸を膨らませながら歩いていく。


確かこっちらへんだったよね?






森の中に突然響いた、大きな音。


狂気に満ちあふれた、大きな笑い声。



……何!?



エースとジャックがそれぞれの武器を構えながら音のする方へ近付いていく。






そこにいたのは



いつだか、三月兎……ミツキの頭の上に乗っていた小さな少年。



起きてる……




確か「眠りネズミ」だよね?

名前の割には起きているけども。




少年は先ほど殺したばかりであろうピンク色の兎を楽しそうにぶちぶちと裂いている。


可愛いのにグロイ。





裂いた兎の肉を口に運んでみたりしている。





原型を失くした兎をつまらなそうに少年は「わー!」と言いながらばらまくようにぶん投げた。





少年の名前は確か。

「……“アズミ”」





私の声が聞こえたのか、少年は周りをキョロキョロと見渡し始めた。



ぱちり、と目が合う。






「……ごはん」



お腹が、空いているのかな?




エース、ちょっとその持ってるりんごでもあげなよ。

……っていっても渡さないんだろうなぁ。



立ち上がった少年は必死にこちら側へ歩き始める……可愛い
……いや、手が赤に染まってて怖いんだけど。



何度もごはんという単語を繰り返している。




「……おめぇら立て」

「えー?」

「早く立てっボケッ!!」




な、何いきなり慌ててんの?

ボケじゃないし!




「僕は……僕はねぇ」






じゅるり、とヨダレがたれる幼い少年。




……そういえばこの子



――殺し屋、じゃなかったっけ?







「全部食べたいなぁ!!」







刹那、私とエースはジャックに蹴っ飛ばされる。

耳に嫌な音が聞こえた。




「……っぐ」





目を開いたときに映ったのはアズミに噛まれているジャック。



動物に噛まれたってレベルじゃない。





ぶち、と音がしてアズミがジャックから離れた。







「……っつー、俺いっつも嫌な役回りじゃねぇか」



「ジャック、手……」

「いいから逃げろっつうの!ジョーカーいるんだろ!さっさとこいつら連れてけ!」





その言葉で、ジョーカーは姿を現した。

なんだか、久しぶりだね。




エースと共にジョーカーに担がれる。




「……行くぞ」
「行かせると思ってるの?」




にこり。

ふいに現れたのは、帽子屋さん。





「帽子屋、さん」


「やぁ、アリス。久しぶり、だね?」



どうして、どうして笑顔でいられるのか。





道を帽子屋さんによってふさがれて、行き場を失う。

あのテーブルとかを出した不思議な力と一緒か。




柵が、現れた。






「さぁ、アズミ。存分に食事するといい……あぁでも、僕の分も残しておいてね?」


「……三月兎は、いないの」

「ミツキ?ミツキはいないよぉ、処分した」




処分。

軽々しくその言葉は吐き出された。



……なんで、そんな簡単に言うの。




あんなにあなたに、忠実だったのに。

あんなにあなたに好意をよせていたのに。




「役立たずはイラナイカラネ」






心のこもっていない言葉が耳に響く。






「気持ち悪い……」



吐き気が込み上げてくる。



気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。



目の前にいた帽子屋さんをにらんだ後に、アズミをにらみつけた。


アズミの肩がびくりと揺れた。





「気持ち悪いのよ!!仲間を簡単に、処分だとか……人間を、食べるなんて……気持ち悪い!」


「気持ち……悪い」




アズミがぽつりと呟く。


少年の目には、段々と涙が溜まっていく。




そして――





「うっ……ひっ……うわぁぁああぁぁん!」



大きな声で、泣いた。





「……は?」


「あっ、アリッ……アリスが気持ち悪いってゆったぁ……うっ……ひぐっ……僕、僕……気持ち悪くないもん」

「な、に言ってんの」

「気持ぢ悪ぐないもん!!」





アズミはひたすらそれだけを主張する。





「あーあ、アリスは酷いなぁ、こんな小さな子に気持ち悪いだなんて」


「なっ……だって」

「気持ち悪いなんて本当に酷い」



「人を食べることが気持ち悪いのよ!」




カニバリズム、っていうんだっけ。


人が人を食べるなんて頭が狂ってるとしか思えない行動じゃないか。




「何で?」



帽子屋さんは笑顔で、淡々と吐いた。


「……何、でって」



「ねぇ、君は食べるよね?鳥を豚を牛を羊を他の生き物だって。それは気持ち悪くないのに人間は気持ち悪いんだ」



嘲るように、幼い顔をした帽子屋は笑った。




「そんなの、人間は優秀な生き物だと考える最低人間の考え方じゃないの?僕らだって肉を食べるよ、生きるために、肉を喰らう……まぁ、食事なんて不必要な趣味のようなものだけど」





そうか、この人たちは。



人のように見えて、人じゃないんだ。





「納得したかな?じゃあ、始めようか」







横も上も塞がれた狭い空間で、帽子屋さんは笑う。


木々の騒めきがやけに遠くに聞こえる気がした。









「君のためのパーティーを始めようかぁアリスゥ!!」










この世界にいたら感覚さえおかしくなってしまいそうだ。


「惨殺会、といったほうが正しいかな?」




「ぐっだぐだと長ェ語りしてんじゃねぇよォ」


隣から、突然あの口調。



……うそ、こんな時に。




エースの目つきが、変わっている。

――ポイズンだ。




彼は日本刀に手をかけて鞘から抜く。



「邪魔者はさァ、どっか行けよ……くそ童顔餓鬼」

「あっはは……てめぇだけには言われたくねぇよ」





帽子屋さんが銃を出す。

それをエースに向けて間髪入れず撃った。




「アリス」



ジョーカーに手を引かれる。


突然のことで体のバランスをくずしかけたけれど、なんとか体勢を保った。





ジョーカーは私の手を引いて走ったまま銃をアズミに向けて


銃声を起こす。





「……ジャックと出口を探せ、ネズミにジャックじゃ分が悪い」




……そうか、噛みついてくるんだもんね。

ナイフを使うジャックじゃちょっとつらいかも。
遠くから攻撃できるもののほうがいいのか。





「わかった」

「何かあったら、これを使え」



小さな銃を、1つ。





ジャックと一緒に檻のような柵の出口を探す。

ぐるぐる、ぐるぐる。




一周したけれどどこにもない。







「……欠陥なんてねぇか」

「どうしよう……」




これじゃ、出れない。




「可能性があるとしたら」




……きっと同じことを考えている。



ちら、と帽子屋さんを見る。





ポイズンが劣勢。


あちこち傷だらけで、見ていられない。


銃と刀じゃ、戦いにくいんだろう。





「――よくある話、術者を倒せば術は解ける」

「つまりそういうこった」






誰かが、帽子屋さんを





――殺す。






「……おめぇは隠れてろ」

「……私は」

「いいから」




私は、逃げてばかりだ。






人に押し付けて、逃げるばかりだ。





嫌な音から耳を塞ぐ。



しゃがみこんで、目を瞑って。




何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。






どれだけ時間が、たったのだろうか。




どうなって、しまったのだろうか。








「アリス、見つけた」





鮮明に聞こえた声。

悪寒が走る。





聞きたくなかった声だ。






ふ、と目を開けるとそこにいたのはジョーカーだった。


……あれ?




なんだか安心したのも束の間、ジョーカーは倒れこんできた。

ジョーカーはすごく、真っ赤で。




その場所に変わるように立っていたのは、帽子屋さん。






「あとは君だけだよ、アリス」




嘘だ。



嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。




「まぁ、口を汚したくないからまだ食べてないけれど」





みんな消えてしまった。

いなくなった。



死んだ死んだ死んだ死んだ。



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