「僕は“ポイズン”だよ。あんな馬鹿と一緒にしないでくれるかなァ」
「“毒”ですか……ずいぶんとわかりやすいお名前ですね」
エースが目の前から突然姿を消したかと思えば、そばにいたナイトが吹っ飛んだ。
たくさんある木の1つに衝突するナイト。
「消えろって、聞こえなかったのかよ?クズ兵士」
「……ッ!」
ナイトは打ちどころが悪かったのか
そこでくたりと動かなくなった。
日本刀に血が伝う。
日本刀を持ったまま、ナイトにゆっくりと近付いていく。
「エースやめてよ!!」
「僕はポイズンだってばァ」
そういって私の方をむいた“ポイズン”は、笑顔。
「……アリスが悪いんだよ」
悪いのはアリス。そう何度も繰り返すポイズンに恐怖を覚えた。
ナイトに近付いていくのをやめ、落ちている木の枝を踏んで折る音を鳴らしながら近づいてくる。
「アリスが、そうやって、他の男に、気を向けるからァ!」
どうして?
「……私を騙したの?」
「はぁ?」
日本刀を暇そうに振る“彼”は怪訝な顔を見せる。
わざと、ゆっくりと近付いてきている。
「薬……手分けして探そうって、言ったのに!」
少しずつ、ナイトの元へと向かおうと。
ジリジリと動いていく私。
「酷いよ」
「酷いのはアリス、君じゃんかァ。僕だけを見てくれないなんて」
それに気づいたのか、移動できないように“彼”は私の横に日本刀を振り下ろした。
「……ッエースが毒を盛った犯人だなんて!!」
ふぅ、と目の前からため息が聞こえる。
そいつは勢いよくしゃがみこんで私に顔を近付けた。
「物覚えが悪いのかな、アリスゥ?探そうって言ったのはエース。僕はポイズン」
嘘だ。
こんなに似ているのに別人なわけがない。
私の思いに気づいたのか、目の前のそいつはニタリと笑った。
「“僕”はエースの第二の人格、っていえばわかるかなァ?」
……第二の人格?
二重人格ってこと?
「僕はエースを知っている、エースは僕のことを知らない。おもしろいよねェ」
エースの別人格……“ポイズン”は立ち上がって土に刺さっていた日本刀を抜き取り
それをナイトに向けた。
「アリスが好きで好きで好きでたまらない。エースも僕もね?だから僕が……エースの代わりにアリスに近付く奴を消してやろーって魂胆だぁよ」
ケタケタと笑うポイズン。
何が一体楽しいのだろうか。
「まずはァ、ジャックにィ、目の前のナイトさんにィ、あぁ、キングとも仲良くしたんだっけかァ……変な包帯ヤローもいたよねェ?ふふふ、アリスってばハーレム状態じゃあん」
「……やめて」
このままだったら
確実にポイズンはナイトを切り付ける。
私の小さな呟きに視線をこちらに向けた。
「……でも、わかったんだ」
ポイズンは私にいきなり刀を向けた。
それと同時に、黒い笑みも私に向けた。
「アリスを殺せば……アリスは僕だけのものになる、って」
「……は?」
どうしてそうなったんだ。
「あー動かないでよアリス、綺麗に殺したいからさァ」
何だこいつは……イカれている。
「アリスが本当に好きなんだよォ好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きだぁい好き」
やばい、本当にやばい。
やばいのに……恐怖で動くことができない。
「アリス……僕らのために死んで?」
そういってポイズンは日本刀を振り上げた。
「僕らだけのものになってよ、アリス」
振り下ろされる日本刀。
あぁ、もう、駄目だ。
だけど、日本刀は振り下ろされることはなかった。
恐る恐る目をあけると、ポイズンを羽交い絞めにしているジャックの姿。
「……ジャック、大丈夫、なの?」
「キングの迷子癖もたまには役立つもんだな!」
ジャック曰く
キングが迷いに迷って着いた先はジャックの家で、キングは偶然解毒剤を持っていただとか。
迷子って……人の家まで侵入しちゃっていいの?
キングはナイトの元に行っていた。
一緒に来たのか。
ジャックはポイズンを殴って気絶させた、痛そう。
呆れたような顔で私を見た。
「なに、こいつどうしたんだよ?つぅかジョーカー!ジョーカーは助けに来なかったのかよ!?」
「……あ、呼んでなかった」
怖さで頭からジョーカーのこと抜けてた……
呼ばないと来てくれないのね、本当。
「ポイズン、なんだって。エースは二重人格者みたい」
「はぁ?」
「毒を盛ったのは“ポイズン”だったって」
「……つまり」
エースのジャージを掴んで反対側の手で拳をつくるジャック。
「こいつが毒を盛ったんだな……エースおめぇこの野郎!!」
わかってないよね!?
エースだけどエースじゃないんだってば!!
再び殴られた“彼”は「痛い!!」と言って目を開く。
「何すんの、何すんのジャックの癖に!!……あれ、ジャック毒は?」
「そりゃこっちのセリフだろ!!おめぇが俺に毒盛ったんだろーが!」
「俺が毒を?意味わかんないんだけど!!あ、アリスが解毒剤見つけてくれたんだね!」
……これは。
「エース、だよね?」
「どうしたのアリスまで!俺に決まってるでしょ!?なんでおーさまと、あの人までいるのさ?何何?なんかあった?」
……覚えてないんだ、やっぱり
「あいつ頭大丈夫か?」
「いや、さっき私説明したよね?」
「……二重人格がどーの?」
「そう。で、もう一つの人格の記憶はないんだって」
エースがキングの元に走ってった隙にその話をジャックにする。
「もう1つの人格をエースは知らないみたいだから、言わないほうがいいのかもしれない」
本人が混乱してしまったら何が起きるかわからない。
常に表に出ている人格が逆転してしまったりしたら困る。
なにそれ普通に怖い。
ナイトが起きたらそのことをナイトにも言っておかなきゃ……
謝らなきゃね。
「アリス!」
無邪気に笑うエースに、少しだけ恐怖を覚えた。
彼はとてつもなく大きな爆弾を、抱えているんだ。
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