染めろ
染めろ
染めろ



全てを赤に
染めるんだ



女王は白が大嫌い



早く赤に染めないと



女王に首を、斬られるぞ?








―甘い毒薬―
〜Red.Red.Red〜












それは突然の出来事。

ジャックが、倒れた。






苦しそうにしているジャック。

どうしようもなく立っていることしかできなかった私。




エースはジャックが使ったカップを見て「毒でも塗ってあったんじゃないかな」と、怪訝そうな顔でコーヒーカップを地面に落として割った。





それで、解毒剤みたいなものを2人手分けして探しているわけだけど……



「どういうものなのさ……」



まったく検討つかず。



街にも売ってないし……





はあぁ、と溜め息を吐く。


諦めちゃだめだ。




早くしないと、危険だし。





がさり。

後ろから草が揺れる音がして、私はとっさに身構えた。

身構えたところで自分の身を守れるのかは甚だ不安だが。






「……アリス?」




その声の主はもしかして


もしかしなくても





「ナイトッ!」

「またお会いしましたね。ところでキングを見ませんでしたか?」




「見てないけど……」





あぁ、また迷子なのね。
あの王様は。





忙しそうだけれど、丁度良い。


ちょっと聞いてみよう。





「解毒剤とか持ってない?」

「……解毒剤?」






不思議そうに首を傾ける彼に、私は説明した。

ジャックが何者かに毒を盛られた、と。






するとナイトは考え込むように視線を下にそらした。




「ジャックは人に毒を盛られるような人物だったのですか?」

「そんな人じゃないよ、いい人」



多少口は悪いが、悪いやつではない。

むしろ、いい人に分類されるような人。



なんだかんだ助けてくれるし。





「犯人は……まぁ、証拠もないのに疑うのはよくないですね。解毒作用のある薬草なら知っていますよ。案内します」





その毒に効くかはわかりませんが、と苦笑する。


ナイトは物知りだなぁ……





お礼を言って彼の後をついて行く。





道の途中で、綺麗なバラが目に入った。





「わぁ、綺麗なバラ」

「それは、元は白いバラだったんですよ」

「え?」





ナイトは足を止め、赤いバラに近付いた。


「このようなことに力を使うのが面倒だったのでしょうか……これは、トランプ兵が全部、真っ赤な色を塗ったんですよ」



全部?塗った?




「彼女は白が、大嫌いですから」



トランプ兵も苦労するなぁ。





「ていうか、白が嫌いなら咲かせなければいいのに」


世界の物はクイーンが作り出しているというのなら。

最初から作らなければいいのにね。






「詳しくは知りませんが……ある日突然、クイーンは人が変わったかのように、好みも全て変化したそうですよ」


へぇ。


突然あんな最悪な性格になったというのか。




ちょっとしたことに気が付く。


ナイトが触れたバラは、ただひとつだけ……色が違った。





赤は、赤なんだけれど。

「このバラだけ赤黒い……?」




そうですね、と彼は言った。




「これは、トランプ兵の血で染められたバラですから」

「は?」


「仕事が遅い兵の1人がこの場で首を切られたそうです。ここで仕事をした私の上司が言っておりました」





怖っ!

仕事が遅いだけで首チョンパ!?





……ん?私の上司?





ここで、仕事をした?




何か、おかしい。





「上司?って、騎士の上司がトランプ兵?」


騎士に上司っているの?

あー、ハートの騎士のほうが位高いんだっけ?




「何言ってるんですか」



くすりとナイトが笑う





じゃあ、ここで偶然仕事をしていた騎士とか?






「私は、トランプ兵ですよ?」


「……」



言葉が出なかった。




は?え?

トランプ兵?




私を見て、ナイトはもう1度笑う。

困った顔で、笑う。





上着を脱いで、私に肩を見せた。

露出したとかじゃなくて、上着の中は肩が出ているような仕様だったので、見えた。





そこには、痛々しく刻まれていた「ハートの5」




「私のナンバーはハートの5。ハートの城のトランプ兵です」






リアルの人間だからといって、特別な役を与えられるわけではないということか。




……考えてみれば1と11から13、ジョーカー以外は特別じゃないのか。

みんなその中に入っていたから、てっきりリアルの人間は特別な数字を与えられているんだと思っていた。



キングだって、適当な数字言ってたけど柄はわかんないけどKなわけでしょう?






ナイトはトランプ兵。

言い方が悪いかもしれないけれど、ただの5。



チェシャ猫に会いに行った時に不思議になったことに合点がいく。



ハートの騎士ではないんだ。




「ハートの騎士かと思ってた」

「そんな高い身分にあるわけではありません」





笑ってみせるナイト。


その笑顔がすぐに消え、どこか遠くを見ているような鋭い表情に変わった。





「どうしたの?キングでも見つかった?」

「伏せろ!!」





ナイトが敬語ではないことに少しだけ驚き、反射的に言葉に従う。





その瞬間、金属音が響いた。
耳に痛いような金属音で、耳を思わずふさぐ。




さくり、と地面に落ちてきたのは。



「……手裏剣?」



なんでもありだな不思議の国!!

本物初めて見たわ手裏剣なんて!





触れようとした手を制された後に
「毒が塗ってありますがそれでも触れたいならどうぞ」
とナイトが言うもんだから、すぐに手を引っ込めた。





「どく、」

「……おそらく、ジャックに毒を盛った犯人でしょう」



……誰だ。

ジャックに毒を盛った人物。









「消えてしまえ」






静かな森に響いた声は喋り方は違えど、聞き覚えのある声。


犯人、は木の上から軽やかに降りてきた。




さっきまで一緒にいた人間だ。


「エー、ス?」






カチューシャをつけていないが
紛れもなくエース。



手分けして、探していたでしょう?解毒剤を。





「トランプ兵ごときが……僕の前から消えろよ!」




普段より荒々しい口調。

一人称の変化。



彼に一体何があったのか?



太刀をエースに向けたまま警戒するナイト。



それに対して日本刀をスラリと鞘から抜く目の前の“彼”。






「エース……どうしたの?」

「エースなんかじゃない」




ゆっくりと唇が弧を描く。
不気味に歪む。


いやらしく笑う“彼”。



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