「……待っていて、クイーン。作り直してあげるから」
――世界を。
誰かが、くすりと笑った
妖しげに笑うその人の企みも知らず
不思議の国の住人達は
アリス達は
今日もゲームをして生きている
―白兎の誘惑―
〜The world is yours!〜
久しぶりね。
真っ白の世界。
また、夢の中?
「アリス」
あの時に出てきた、あの人。
相変わらず顔は見えない。
「ねぇ、あなたは顔を見せてくれないの?」
「アリスが気付いてくれない限り、無理なんだ」
私が誰であるかを気付かないと無理であるという。
……そんなこと言ったってさ。
私はアリスの世界にそこまで詳しくなんかない。
物語の中で、今出てきていない人を……だなんて無理だ。
アリスの登場人物なんてあまり知らない。
「トランプ兵とか……?」
「そういうのじゃなくて」
呆れたようなその人の声。
じゃあどういうのよ。
……知らないよ!
真っ白な空間のくせに、顔だけ隠れているとかいうおかしな世界。
「アリス。あの人を助けてくれた?」
「だから、あの人って誰?」
今回はクイーンは出てこないのだろうか。
余裕そうに目の前の誰かが話す。
「時間だよ、アリス。思い出して?緑、色の……」
……緑色?
森?
そこでその人はふわりと消えた。
夢が覚めるのか。
そうは思ったが、白い世界から抜け出すことはできなかった。
私の足は白い世界についたまま。
不安定な感覚に陥る。
自分が足をつけているのかさえ、わからない。
「……あれ?」
「アリス、アリス。久しぶり」
「……あなたは」
白ウサギ……
彼女は元気にぴょこぴょこと跳ねる。
「夢が覚める前に、少しお話をしましょう?」
赤い瞳が細まる。
不気味なくらい、綺麗に。
本当に……何でもありだな不思議の国。
「何?」
そう聞くと、白ウサギはにこりと笑った。
「僕はね、女王様が嫌いなの」
……はい?
「だから、アリス」
ちょっと待て。
白ウサギは、クイーンの使いじゃないのか?
……主従間でも、好き嫌いはあるということか。
それはそうか、人間ならば……あれ?白ウサギもクイーンも人間じゃないんだっけ。
クイーンも逆らうようなキャラクターを作ってしまったわけか。
「アリス、女王様を殺しましょう?」
可愛らしい声で、とんでもないことを。
「嫌だよ!」
「なんで?」
白ウサギは可愛らしく首をこてんと傾ける。
「人を、そんな……」
「ここは不思議の国。法律なんていうルールに縛られていない世界」
白ウサギは私に近付いて、ニコリと笑った。
すぐに、瞳には狂気が満ちる。
「女王様さえいなくなれば、この世界は君のものなんだよ?」
本当に
「ねぇ、アリス!!」
この世界は
「全て思いのままになる世界!人を増やすも消すも好きにできるの!アリス、君が世界の支配者になれるの!!」
狂っている――……
「……私は、こんな世界いらない」
ただ1つ、私が望んでいること。
それは
「私は、みんなとリアルに帰りたい……それだけなの」
「……」
白ウサギは黙って私を見た。
彼女の笑顔が怖いくらい綺麗に消えた。
そして、微かに唇が言葉を紡ぐ。
“ツ・マ・ラ・ナ・イ”
「気が変わることを祈っているよ、アリス」
にこりと白ウサギは笑って消えた。
……変わるわけないじゃん!
ようやく白の世界から解放された。
「……はぁー」
寝起き最悪だ。
ベッドから降り、ドアを開ける。
「おう、アリス」
「アリスおはようっ!」
「ジャック、エース。起きるの早いね」
「今日はアリスが遅いんだよ」
そうか……夢の中で白ウサギに会っていたから。
「夢見が悪くてね……」
……あれ?
白ウサギだけじゃ、ないよね。
そうだ、私は
“名もわからぬ人”に会った。
何を言っていたん、だっけ。
「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど――……」
その言葉を遮ったのは、わざとなんかじゃない。
目に入ったからだ。
その人が言っていた
「緑色――……」
そうだ、その人は言っていた。
緑色を思い出してと。
「……はぁ?」
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