チェシャはね?
誰の味方でもないんだよ
強いて言うなら、遊んでくれる人
遊んでくれる人を
ずっとずぅっと探しているんだよ?
―チェシャ猫の謎々遊び―
〜Cheshire Cat loves.....〜
「ナイトはどうしてキングと一緒にいるの?」
「はい?」
だって、わからないじゃない?
あんなヘラヘラしてて、イラッとくるような王様に、こんないい人がついているなんて!
「疲れるだけじゃない」
「そんなことないですよ」
そういって、ナイトは優しく笑う。
まぁ、疲れるのは否定しないですけれど。と苦笑も含んだ。
「……あの方は、私をあの城から連れ出してくれた」
「城から出るくらいで……」
「私のような身分では、外へ出ることも許されませんでしたから。あの城の者で外に出ることを許されるのはキングとクイーンと、ハートの騎士くらいで」
……あれ?
さっき、キングは
この人は騎士だと言ってなかっただろうか?
ハートの騎士、とは言ってなかったもんな。
ハートの騎士よりちょっと位の低い騎士なのか。
でもハートのピアス……ハートの城だから?
うーん、よくわからない。
「チェシャ猫」
「チェシャ猫っ!?」
しかし、そこにいた猫は
「……ピンクくない」
ピンクなんかじゃなくて
金髪だよ、金髪。
尻尾はお店で売ってる様なファー尻尾だし?
人間の形してるし?
偽物か!?
あ、でも耳ついてる。
チェシャ猫は気付かなかったようで、ナイトがもう一度大きな声で呼びかける。
「チェシャ猫!」
ナイトがそう呼びかけると、チェシャ猫は木の上でキョロキョロとして私達の方を見た。
「ナイトさん、こんにちは。アリス、はじめまして、はじめまして、にこっ。チェシャはチェシャ猫だよ、にゃあ」
「は、初めまして」
独特なしゃべり方をする人だ……猫だ?
「チェシャ猫。アリスを……」
そこでナイトの言葉はとまった。
「そういえば、何処に行きたいんですか?」
「えぇと、ジャックとエースのところに……」
チェシャは私の言葉を聞いてにっこりと笑う。
「いいよ、うん、にこっ。謎々、謎々、とけるかな?」
そういって、チェシャ猫はくるりと回った。
な……謎々?
「口から出すことはできるけど、入れることができない動物、なぁんだ?」
えぇと、口から出すもの……息?
いや、入れれるよ、普通に。
てゆーか、私は2人のいるところ聞いただけなんだけど。
「動物、ですか……犬、猫、兎……関係ないですよね」
ナイトが悩んでいる。
悩むイケメンもいいね……じゃなくてですね。
謎々を解かないと質問の答えをくれないということなのか。
「ヒントはね、身近なものだよ?にこっ」
チェシャは楽しそうに笑いかける。
身近なもの……?
それこそ、猫や犬ではないか。
「身近なもの……あ、蛇ですね」
「ピンポンピンポン大正解!にゃあ、ナイトさん正解だよ?」
蛇……へび?
全然身近じゃないんですケド。
「蛇?どうして?」
「アリス、アリス、わからないの?きょとん……アリス、アリスはお馬鹿な子、くすくす」
馬鹿って言われた……わからないって!
チェシャはくすくすと笑ったままで、理由はいっこうに教えてくれそうにない。
「“蛇口”ですよ。蛇口に水を入れることはできませんが、水を出すことは可能でしょう?」
にこりとナイトは笑って説明をしてくれた。
……あぁ、なるほど。
わかれば単純な問題だ。
小学校のお楽しみ会とかでありそうな。
「それで、2人は何処にいるんでしょうか?」
「いいよ、いいよ。正解したから教えてあげるよ?」
木の上でごろごろと喉を鳴らしながらチェシャは笑う。
「2人はね、君達のすぐ後ろさ、くすくす」
チェシャがその言葉を言った刹那、鈍い剣同士がぶつかり合う音がすぐ側で響く。
目に入ったのは、栗色。
「エースッ!?」
エースが日本刀をナイトに向けて振りかざしたらしい。
すぐにそれを察知したナイトはそれを太刀で受け流した。
びっくりするから急にはやめてちょうだい!
ナイトは少し離れたエースに太刀を向ける。
「何者ですか……刃を向けるというのなら、容赦はしません」
単調な口調でナイトがエースに言い放った。
あれ、顔見知りじゃないのか。
……そっか、城から出てないから他の人と関わりがないんだ。
「お前、騎士の格好してる。クイーンの元へアリスを連れて行くなんて、俺がさせるもんか!!」
エースは勘違いしているようで、大声を上げて叫んだ。
後ろでチェシャ猫が「うるさいなぁ、ぷんぷん」とか言っていた。
その喋り方本当なんなんだろう……感情わかりやすいけど。
「……何か、勘違いをしてませんか、」
「うるさいうるさいうるさい!!アリスの敵は俺の敵だ!俺がアリスを守る……俺だけがっ……」
……エース?
様子がおかしい気がする。
「おめぇがうるせぇ!」
ゴンッ
後ろから、ジャックがエースを殴った。
エースは頭を押さえてしゃがみ込む。
「アリス。おめぇ何で……騎士なんかといるんだ?」
ジャックはいたって普通。
朝のことが嘘のように。
「先ほど会いまして、アリスが道に迷ったというので、チェシャ猫の元に来たんですよ」
「……なるほどな」
「ていうか何でチェシャ猫?」
「先ほどの通り、チェシャ猫は謎々に正解すると何でも教えてくれるので」
「チェシャはね?クイーンの次に何でも知ってるんだよ?くすくす」
……何でも?
「じゃあ、みんなの名前も教えてくれるの!?」
「それは知らない、クイーンしか知らない事項だもん、しゅん」
そっか。
だよね。
チェシャは、でもね、と付け足した。
「何処にあるかまでは知らないけれど、名前を記録している水晶玉があるんだって」
水晶玉?
「本人が触れたり壊したりすると、名前と記憶が戻るって、クイーンが話しているのを聞いたことがあるんだ、にゃあ」
「そうなの!?」
ある場所は、ハートの城だ。
だけど、城の広さ。
探すのは楽じゃないだろう。
そもそも入ることができるのか?
「アリス、もう大丈夫ですね?私はそろそろ失礼します……あの方を捜さねばなりませんので」
最後、呆れたように言ったよね?
なんか、本当にごめんなさい。
「ありがとうナイト……その、頑張って?」
「ありがとうございます。では、またお会いしましょう」
ニコリ、と笑ってナイトはすぐに走っていった。
「そろそろ戻んぞ。名前が水晶玉にある、その情報を得られた。今日は十分じゃねぇか」
「そうだね。チェシャ、ありがとう!また、なぞなぞで遊ぼうねっ」
「……バイバイアリス。にこっ」
私はジャックの後を追った。
「また、遊ぼうね、だって……チェシャ、初めて言われたよ?ルンルン」
チェシャネコは誰にも聞こえないような声で、嬉しげにそうつぶやいた。
「アリス」
後ろから声を掛けてきたのはエース。
草を踏み分けて近寄ってきた。
普段は「先に帰ってるよ」って言って木の上を走って行くのに……
エースもなにげに住み着いてるよね、ジャックの家。
「アリス」
ただ、名前を呼ぶばかりで。
ふいに、後ろからギュウッと抱きついてきた。
力強く。
ありえないぐらい、強い力。
「エー、ス?」
「君は俺だけが守るよ……君は、俺だけの……」
いつもと違うエースに、何か寒気を覚える。
離れなきゃいけない。
でも放しちゃいけない。
わけが、わからなくなる。
「エース、早く……早く行こう?」
「……うん」
離してくれたけれど、彼は何処かおかしい気がした。
私はまだ、気付けなかった。
気付けなかったんだ。
“彼”に――……
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